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癖というのはなかなか治らないものだ。
自分の髪を触るだの、親指を噛むだの、癖というものはもう自分の無意識下で行われているもので、やめようとするには、やめようと意識をしないといけない。 その癖が生まれる原因の1つとしては、その行動が日々繰り返されていたからというものもあるだろう。 当たり前になってしまったこと=癖と考えてもあながち間違えでは無いのかもしれない。 人生の中で何度も何度も繰り返し行われてきたことが癖にならない方が難しいのだ。 だから人間誰しも癖の1つや2つ、持っているだろう。 もしかしたら自分も、ましてや他人も気が付いていない癖が。 しかし僕の場合。 その癖は自分も、ましてや相手も気が付いている。 ― 素直じゃない二人 ― 「やはり気になりますか」 シエルの癖を見逃さなかったセバスチャンは苦笑しながら声を掛けてくる。 目敏い相手にシエルはため息をついて、撫でてしまっていた親指から手を離した。 「別に。ただ何となくだ」 「何となく、と言う割にはいつもそこを触っておられますよね」 「・・・仕方ないだろう。三年間ずっとしてきた仕草だ。急にやめろと言われてやめられるわけがない」 腕を伸ばして自分の手の平、否、親指を見て自嘲するかのように哂う。 そこには黒い爪が輝き、真っ白く細い指が鎮座している。そこに何の飾りもなければ、指輪だってない。 「置いてこずに持って来れば宜しかったのでは?」 「嫌味かそれは」 「さぁ、貴方の判断にお任せします」 ニッコリと微笑むセバスチャンにシエルは舌打ちをしながら、先ほどまで眺めていた外に視線を戻す。 置いてこずに持って来ればよかったなんて、どの口がほざいているのだろうか。 もう自分はシエル・ファントムハイヴという人間では無く、そして女王の番犬でもない。 あの指輪を持ってくる意味も無ければ、持っていたいとも思わない。 が、いつまでたっても親指を撫でる癖が抜けないからセバスチャンは嫌味を言ったのだろう。 それか・・・。 シエルは窓際に座ったまま力を抜き、頭をコテンと枠に預ける。 外には海があり、潮の匂いが混じった風がシエルの頬を撫でていく。 それは心地いいものだが、どこか今の自分の穴が開いた部分を錆びさせていくようで痛みを感じてしまう。 (女々しいな、いつまでも) 悪魔になれば感情も消え去るのかと思っていたが、どうやらそんなこともないらしい。 いや、もしかしたら自分は人間から悪魔になった“異端”なので、本来ならば消え去っているものなのかもしれない。 「坊ちゃん」 「なんだ」 変わらず背後に立つセバスチャンの声に投げやりな態度で返事を返せば、相手から提案が差し出された。 「新しい指輪を付けたら如何ですか?」 「新しい指輪・・・?」 「えぇ」 眉を顰めながら目線だけをセバスチャンに向ければ、セバスチャンは口元に弧を描いたままこちらへと近づき、シエルの前で膝をつく。 「そうすれば指輪がない指を気にすることも無いかと」 「別に指輪をすることに拒否は無いが・・・」 指輪をすることは別に構わない。 自分を飾り立てることに興味はないが、指輪を嫌がる理由もないのだから。 だが、正直。 あの指輪の代わりに他の指輪をする、というのは何だか気に食わない。 もうあの指輪も捨てて親指は軽くなったというのに、新たな指輪をしたことで、まだ自身があの指輪を気にしてしまっていることを目に見えて確認するような気にもなるのだ。 それに。 (わざわざ親指という妙なところに別の指輪を嵌めるというのも可笑しな気がする) そう思い提案を渋っているとセバスチャンはこちらの思考を読んだようで、シエルの左手を取りながら「ご安心ください」とクスリと笑った。 「親指ではないところに指輪を嵌めましょう」 「別の指に?」 「えぇ。たとえば」 こことか。 そう言いながら触れた指は。 左手の薬指。 「・・・・・・・・は?」 その指を触れさせた状態のまま、シエルは眉を顰めたまま首を傾げた。 左手の薬指に指輪を嵌めるだなんて。 この悪魔が自分で遊ぶことに関してはいつも怒りを覚えるけれど、今回は怒りを通り越して呆れてしまった。 「貴様、どれだけ僕を嘲笑いたいんだ」 「嘲笑いたいだなんてとんでもない。私はいつ如何なる時も本気ですよ?」 「じゃぁ、本気で左手の薬指に指輪を嵌めろと?随分とつまらん嫌味だな」 もう付き合ってられん、とシエルは再び窓の外に視線を戻そうとすれば。 「冗談でも嫌味でもないですよ」 「うわ・・・・?!」 グイと掴まれていた手を引かれ、身体がセバスチャンの胸元へと倒れていく。 もう片方の手で窓枠に手を掛け身体を支えようとするが、その前に抱き寄せられ、身動きが取れなくなってしまった。 「ちょ、セバスチャン!」 「私が貴方に指輪を贈ります」 「はぁ?!」 言われた言葉に驚き目を見開いて相手を見つめれば、酷く楽しそうな顔が瞳に映りこむ。 誰が誰に指輪を贈ると? 「貴様言っている意味が分かっているのかっ」 「えぇ。分かっておりますよ」 セバスチャンはそのまま掴んでいる左手を口元へ近づけ、薬指にチュッと口付ける。 それにシエルはビクリと身体を奮わせ、頬を染めながら「離せ!」と叫ぶが、「嫌です」の一言で一刀両断された。 抱きしめられたことは何度もある。勿論それは主人と執事として、または契約者と悪魔として。 しかし今はそのどちらにも当てはまらないような気がして、シエルは早くなる鼓動を感じながら、セバスチャンから逃れようともがく。 「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないですか」 「嫌がるに決まっているだろう!こんな、ワケの分からない・・・」 頬を赤く染めたままシエルは無意味に首を横に振った。 左手の薬指に指輪を贈る。 イコールそれは“結婚してください”ということ。 (なんで、そんな・・・っ) 一体セバスチャンが何を考えているのか全く分からない。 ただの冗談や嫌味なら分かる。 いつだってコイツは嫌みったらしくて、自分との間には喧嘩が耐えないのだから。 けれど。 ―――冗談でも嫌味でもないですよ 彼はそう言ったのだ。 嘘をつかない彼が。 「べ、別に親指を気にしてしまうのを紛らわす為にする指輪なら、薬指じゃなくてもいいだろう」 今のワケが分からない状況を何とかしたくてシエルは別の方向へと流してしまおうとするが、セバスチャンはそれを許さない。 「そういう意味で言っているわけじゃないと、分かっていますよね?」 「・・・ッ!」 「お子様な坊ちゃんの為にストレートに言いましょうか」 それにビクリと身体を奮わせる。 (あぁ・・・来る) どうしてそんなことを思うのか分からない。 だがなぜかセバスチャンからこれから言われるであろう言葉は、どこかでいつか言われるような気がしていた。 それでも、それをずっと知らない振りをしていた。 聞きたくないと耳を塞いでいた。 だって聞いてしまったら、きっともう。 逃げられない――― 「坊ちゃん」 いつもと同じ声で呼ばれる同じ名前。 けれど赤く煌いている瞳は、いつもよりも真摯で。 シエルの左手を取り抱きしめたままセバスチャンは、 「結婚してください」 そう言った。 室内に沈黙が広がる。 先ほどと同じように潮風が頬を撫で髪を揺らすが、シエルの意識の中には入ってこない。 今シエルの世界には目の前にいる悪魔と、その悪魔が言った言葉しかないのだ。 それ以外を認識する余裕などどこにもない。 一体どれぐらい二人は見つめ合っていたのだろうか。 沈黙が破られたのは、シエルの震える小さな声だった。 「・・・本気、か?」 「はい」 セバスチャンは頷く。 嘘はつくなと命令してあるし、それに。 この瞳を見て嘘だと思える奴がこの世にいるだろうか。 「・・・じゃぁ、お前は・・・」 「坊ちゃんを愛しておりますよ」 「~~~~~ッ!!」 その言葉に一気に身体中に熱が広がる。きっと顔も真っ赤になってしまっているだろう。 シエルは逃げるように顔を自らセバスチャンの胸板に埋めれば、クスリと笑う声が耳を擽った。 「坊ちゃんは私の気持ちに気付いておられるかと思っておりました」 「気付くか馬鹿ッ!」 「おやおや・・・」 では順番を間違えてしまいましたね。 そう言いつつも、クスクスと笑う声が絶えない。随分とご機嫌なようだ。 こちらはこんなにも掻き乱されているというのに。 それにまだプロポーズの返事だってしていない。 「随分と余裕だな」 少しでも自分のペースを取り戻すべく嫌味の一言を言ってやるが、セバスチャンは平然と、そうじゃない、と答える。 「坊ちゃんが随分と可愛らしくてつい」 「はぁ?!」 「人間の頃も、そして悪魔となった今も、私のことで坊ちゃんが焦ったり恥ずかしがったりした様子をあまり見たことがありませんでしたので」 「馬鹿か貴様はッ」 自分のペースを取り戻すどころか余計にまた恥ずかしい言葉を吐かれ、結局また振り回されてしまう。 (くそっ・・・) 恥ずかしさで死ねそうだと唸れば、セバスチャンは掴んでいた左手を離し、その手で今度は顎をクイっと上に向けさせる。 その自然な動作に抵抗する間もなく、真っ赤に染まった顔をセバスチャンに曝してしまう形となってしまった。 それに再び嫌味やら文句やら言ってやろうと口を開くが相手の方が一歩早く、こちらの言葉を奪ってしまう。 「それで、坊ちゃんの返事は?」 「うっ・・・」 「プロポーズしたのですから、返事をするのは当たり前でしょう?」 呆れるような表情に一瞬本気で殴りたくなるが、まだ抱きしめられた状態で自由が利かないので睨み付けるだけで我慢する。 それにセバスチャンは対抗するように口元を吊り上げるが、その瞳はプロボーズした時と同じ真摯で。 どこまでも本気なのだと、思い知らされる。 そしてその瞳にゾクリとした快感が背中に走ったことも。 そして、やはりもう逃げることが出来ないということも。 自分が自分自身に思い知らされた。 「セバスチャン」 シエルは相手を睨みつけたまま名前を呼ぶ。 きっと自分の瞳も赤色に染まっているのだろう。けれど相手はその瞳を見つめたまま逸らそうとはしない。 「お前の癖って何か知っているか?」 「癖、ですか?」 返事とは違う話しに驚いたのか、若干瞳を大きくしながら首を傾げる。 それにシエルは笑いながら頷いた。 「お前が僕に何か本気で伝えたいことがあると、まずは僕に嫌味を言ったり試すようなことをするんだ」 「・・・そう、ですか?」 「まぁ、ただ嫌味を言う時もあるがな」 「あまり意識したことありませんでしたね」 ムスッとしたような声で言うセバスチャンにシエルはまた笑い、コツンと額と額を合わせた。 そして相手の顔を見ないように目を閉じる。 これから言う言葉は相手の顔を見てなんて言えるわけがない。 一回だけ大きく深呼吸をして、そして。 「僕じゃなければ、きっと嫌味を言われた時点でその後にお前が言う言葉なんて聞こうとしないだろう」 僕じゃないと、お前の本音には辿り着けない。 「だから、仕方ないから、その。お前の傍にいてやる・・・」 小さな声で、返事を返した。 「つまりは、どういうことですか?」 「え」 まさか今の返事にそう返ってくるとは思わず、伝わらなかったのか?!と若干焦りながら瞳を開ければ、酷く嬉しそうな表情のセバスチャンが映る。 (全部分かっているだろうがッ) シエルはビシッと何か亀裂が入ったような音がどこかからか聞こえ、口元をヒクヒクと引きつらせながら 「ゴンっ」 合わせていた額を引いて、頭突きをかました。 「っ~~~~~!!」 構えていなかったところに本気の頭突きをくらったセバスチャンが痛そうに表情を歪ませたのを、シエルは痛みで潤んだ瞳で見て笑い「つまりはなッ!」と叫ぶ。 「貴様のプロポーズを受けて立ってやる、ということだ!」 「~~~~・・・貴方という方は本当に・・・」 僕も愛している、ぐらい言ったらどうですか。 そう文句を言った後、そのままセバスチャンの唇がシエルの唇に重なった。 一瞬なにが起こっているのか分からなかったシエルだったが、口付けられていると理解した直後、相手を殴ろうと手を伸ばすけれど。 ―――坊ちゃんを愛しておりますよ 伸ばされた腕は相手を殴らず。 代わりに相手の首に回して。 セバスチャンの欲しがった返事を、唇で返した。 素直に伝えられないから 癖という名の言い訳で 大好きな君に プロポーズ!! **** もう公式でも結婚してても不思議ではない二人なので、 一体どんなものを書こうかと色々と迷いました(笑) が、結局二人の普段の生活の中で普通にプロポーズをするという、 なんともストレートな文章となりましてorz セバスチャンが指を触る癖についてシエルに指摘したのは 元々プロポーズをしようと決めていたからなんですww 素直じゃない二人を見ているのはとても楽しかったです(笑) 最後まで読んでくださって、ありがとうございました! 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「お帰りなさいませ、坊っちゃん。私にします? 私にします? それともワ・タ・シ?」 「食事にしてくれ」 「ワ・タ」 「食事にしろ」 「…………」 私の旦那様は、本当にツンばかりで困ります。嗚呼、もしや新たな門出に照れていらっしゃるのでしょうか? 何せ私たちは、 結婚 したのですからね! あくまで結婚! 悪魔の私が坊っちゃんと契約し、早三年。 アニメ黒執事で世の紳士・淑女の皆様からご好評を頂いた私達の元には、クランクアップ後直ぐに黒執事Ⅱのオファーが来ました。 Ⅱ期は、約一年という準備期間を経て放映。私の坊っちゃんへの想いが前回よりも丁寧に描かれていたこと、これは大変良かったでしょう。演技にも熱が入るというものです。 しかしそれ以上に作中では、クロードさんにアロイス様、ハンナさんまでが私の坊っちゃんにべたべたべたべたと――本当に、腸が煮えくり返るかと思いました。 それでも仕事と言われれば、その身を投げうることもいとわない坊っちゃん。立派に役をお勤めになりました。 しかしその間私が、どんなに歯痒い思いをしたことでしょう。 私の坊っちゃんが、撮影とは言え他の者に良いようにされる。ハンカチーフを噛みしめ、枕を濡らした夜は数数えきれません。 そこで私は、はたと気付いたのです。 これは契約以上に強く、私たちを縛るものが必要だと。ストレートに言えば既成事実を作って逃すな! 私の旦那様作戦です。 坊っちゃんは照れながらも、私のプロポーズを快諾して下さいました。 あの時の表情といったらもう――私の長い悪魔の生の中でも、最も幸福な日であったことは言うべくもありません。 恐らくお気づきのお嬢様も多かったことと思いますが、最終話のカード? あれは私たちの結婚式の招待状です。何故か作中では修正が入っていましたが。間違いなくあれは、私達の結婚式の招待状でした。 あれから数ヶ月。6月、大安吉日、最高にお日柄の良い日に私たちは森の小さな教会で、ひっそりと挙式しました。 リンゴーンと鐘の鳴り響く中皆に祝福され、晴れて私は坊っちゃんのお嫁さん! 嗚呼何て素敵な旦那様! 良きかな結婚! と思ったわけですが……。 変化が、無い。 その後一応、前以上に同じお部屋で過ごすようにはなりました。主人の部屋に入り浸るなど執事の美学に反するとは言え、そこはあくまで夫婦ですから。嫁ですから。 でも帰宅後の定番台詞に私を求めて下さったことは無いですし、裸エプロンをした日にはまるで虫けらを見るような瞳で私をご覧になりました。 YES・NO枕は常に私がYESで坊っちゃんがNO。いってらっしゃいのチューにはビンタが飛んできます。 こんなことって有り得ますか!? 私たち、新婚ほやほやの夫婦なのに! 中身は熟年離婚寸前です! それでも、愛する坊っちゃんに三行半を叩き付けて里帰りなど出来るはずもありません。 せめて夜の営みだけでもしっかりしたい……。そう思いながら私は、必死で打開策を考えました。 ◇ 「……で、それでアタシにどうしろって言うのよセバスちゃん?」 これは新婚早々離婚の危機かしら!? とにやつくのは、赤死神ことグレルさんです。 ひっそりとして、人気は無い。こっそり忍び込んだ死神派遣協会の一室で私は、ため息を吐きました。 「馬鹿なことをおっしゃらないで下さい。私と坊っちゃんが離婚だなんて、ありえません」 「あら、じゃあ何かしら?」 「その……噂を聞いたんです」 「噂?」 それは死神の鎌でも刈れなかった魂が協会内で保管されているという、ほとんど都市伝説のような噂でした。 肉体を失った魂は、片割れとしての生きた肉体を求めさ迷う。普通ならば刈り終えた時点で魂の行く末は決まっていますが、あまりに未練が強すぎるとその道を外れてしまうことがある、と。 「――やあね、流石悪魔のセバスちゃんと言ったところかしら」 「では、」 「いい、これは危険なのよ? 強い未練を持った魂は、その想いを遂げるために生きた人間を利用するの。先客なんて関係なしだわ。無理矢理入り込んで身体を乗っ取って、」 「成る程……」 私はグレルさんの言葉に、ほくそ笑みました。これこそ私の欲しかったものに、間違いありません。 「やだんセバスちゃんのその微笑、し・び・れ・るゥ~!! もうあんなガキどうだっていいじゃない! こんな辛気臭い話より、今すぐアタシといけないアバンチュールを……」 「ふぅ、まあそれも良いかもしれませんね」 「んもう、セバスちゃんったらホントお堅……ってえ゛ぇーーーー!!!」 ……今、完全に男性の声でしたね。 「私達新婚なのに、坊っちゃんは全く相手をして下さらないですし? 正直溜まってるんですよね。私」 「ヒッ、ヒドイわセバスちゃん、そんな言い方…。まるで性欲処理みたいな……大人のビジネスライクな関係みたいな……そんなの、そんなのって」 燃えるじゃない!!! 私は勢いをつけて、唇めがけて飛び付いてきた顔面をギリギリと止めました。片手で。 「貴方もあの堅物死神に知られたら困るでしょう? だから、大人のアバンチュールは絶対に誰も訪れない場所にしたいんです。――例えば、ほとんど人が訪れない重要機密が保管されている部屋、とか」 ◇ 爽やかな風が屋敷を通り抜ける、6月某日。 シーズンを迎えたローズガーデンのスターリングシルバーは重厚な芳香を漂わせながら、ファントムハイヴの屋敷を彩っていました。 昼食の時間、坊ちゃんは、私に横抱きにされた状態で食堂に足を踏み入れました。 私の首筋に腕を絡め、うっとりとこちらを見つめる坊ちゃん。 愛しい愛しい、私の坊ちゃん。 「食堂に到着しましたよ、坊ちゃん。降りて下さい」 「……やだ。せばすちゃんの膝の上じゃなきゃ、食べたくない」 「おやおや坊ちゃん、いくら私のことがお好きだからと言って我侭はいけませんよ」 「わがままじゃないっ!」 ぎゅう、とまるで赤ん坊のように、私に抱きつく坊ちゃん。 やだやだ、もうミカエリスカンゲキ!! 広い食堂に足を踏み入れた時から、使用人たちはざわざわと、まるでこの世のものではないものを見るような目で坊ちゃんを見ています。 主人を相手に、拾い食いでもしたんじゃ…などと失礼なことをのたまう始末。 でもまあ、あながちそれも間違いではないのかもしれません。 それは遡ること、数時間前。 今朝のことです――…。 「お目覚めの時間ですよ、坊ちゃん」 私は主人の起床の時刻に合わせて、寝室の扉を叩きました。 まっさらな夜着の裾から艶やかな脚を露にする、悩ましい坊ちゃん…を横目に、さっさとアーリー・モーニングティーと朝食を用意します。 「お待たせ致しました、坊っちゃん。本日は昨夜インドから届いたアッサムをご用意致しました。少々こくが強いので、普段よりミルクは多めでどうぞ」 「ん」 私は温かな紅茶を手渡すと(ばれていないとでも思っているのでしょうか、)ほんの少しだけ頬を緩ませる愛らしい旦那様を見つめる。 寝癖でぴょんとはねた前髪を整えながら、ティーカップに近づく瑞々しい唇を見つめる。見つめる。 「……何だ」 「はい?」 「その血走った目は何だと訊いている! こんな状態で飲める訳がないだろう!」 おっと……私としたことが、これはまずいですね。 「別に何も? はい、ふーふー。どうぞお召し上がり下さい」 「だから、」 「ほら、あーん」 「んく!」 無理矢理カップを傾けると、しぶしぶと言った様子で嚥下する坊ちゃん。 「んあ………?」 細い喉がこくり、上下に動いたかと思うと、坊ちゃんはくるくる目を回して倒れました。 人間の魂は、エネルギーの集合体です。 そしてこの紅茶にはまさしく、グレルさんをたぶらかし死神派遣協会から持ち出したある人間の魂――「愛情に飢えた満たされない魂」が入っていました。 寂しさ故の、ちょっとした、出来心だったんです。 最近大した事件もありませんでしたし。 ――そんな訳で今日の坊ちゃんは、大変可愛らしくあらせられます。 望み通りお膝の上に乗せて差し上げると坊っちゃんは、この上なく嬉しそうに微笑みました。 「ん、せばすちゃん! ぼーっとするな、はやく食べさせろ!」 「はいはい、」 「それじゃなくて…それだ、はやくっ」 食べさせてもらうのが当然と言わんばかりに、 まるで雛鳥のようにピーピーと鳴きながら口を開ける坊ちゃん。 可愛らしい頬を染め、私の手から食事をする愛しい愛しい旦那様。 「ん、おいしい…セバスチャンのごはん、好き……」 坊ちゃんのその言葉にまさしく、屋敷内に衝撃が走りました。 あの坊ちゃんが、好きだと! 私(の作った食事)を好きだと!!! 脇に控える使用人たちも、これは何事かと言い合います。 そう、彼らも勿論私たちの結婚を知っていましたが、今日まで新婚らしいムードなど皆無だったのですから。 坊ちゃんは正気に戻ったら、私をお叱りになるでしょうか? でもとりあえず今は、素直な坊ちゃんを前に夜が楽しみで楽しみでなりません!!! ◇ その後坊ちゃんは、一日私に大いに甘えてお過ごしになりました。 午後は絵本を読み聞かせて差し上げて、屋敷内は私の抱っこで移動。 使用人に隠れて軽いキスをねだるその表情の、なんと愛らしいことでしょう!! 私は今、替えの蝋燭を用意しスキップしそうな勢いで坊ちゃんの寝室に向かっています。 というのも先程のバスで、坊ちゃんのお許しが出たからです! 『あの、坊ちゃん…勝手ながら明日の午前の予定は、午後に移しています。ですからその…今夜は……』 『ん、分かってる。僕もセバスチャンと……その………』 『坊ちゃん!』 アーッもう坊ちゃん坊ちゃん!! 久々の夫婦の営みに、あまりに楽しみで胸が震えます。 それにこの素直な坊ちゃんのご様子ですと、あんなアクロバティックな体位からこんなアブノーマルプレイまでお付き合い願えるかもしれません! 嗚呼、いけませんね。妻である私が、こんなみだらなことを考えていると旦那様に知れては――。 私は必死で緩む頬を引き上げると、扉をノックしました。 「失礼致します、坊ちゃん」 「ばか…おそいぞ……」 薄暗い燭台の下シーツを引き上げ、恥ずかしそうに頬を染める坊ちゃん。 私にはその肩が確かに、剥き出しであるのが見えました。 「えぇっ坊ちゃん、まさかもう……」 「~~っ言うな! 待たせるお前が悪いんだ…もう、早く……」 「坊ちゃん!!」 私はもう、辛抱たまらん! と言った様子で坊ちゃんに飛びつきました。 潤む瞳を見つめ、口付ける。 唇を離し、その柔らかな頬に指を滑らせもう一度口付ける。 「んっ……!?」 そうして、坊ちゃんの唇に舌を滑り込ませると、逆に絡め取られました。 思わず、おかしな声が出てしまいます。 「せばすちゃん、大好き……」 「わ、私もです、ぼっちゃ…ンっ、」 今度は坊ちゃん自ら隙間に舌を差し入れると、踊るように舌を絡ませてきます。 そのままきつく、吸い抜かれる。 あれ…何だかこれおかしくありません? 歯列をなぞり唾液を嚥下しながら、舌を動かす坊ちゃんの動きは完全に玄人のものです。 しかもその間に気がつけば、テキパキと私のシャツを脱がせていきます。 「きもちいい…セバスチャン、もっとちょうだい…」 「あっ」 言っていることも、その仕草もなにもかもが素敵に愛らしい坊ちゃん。 しかし露になった私の胸に吸い付き、時々歯を立てながら敏感な場所を転がす坊ちゃん……。 「くっ……」 いえ、嬉しいのですよ!? 積極的な坊ちゃんも新鮮で、実に良いではありませんか。 それに私はあくまで妻。坊ちゃんの命令には何でも従うつもりです。 ですが……ですが、私の臀部を揉みこむ小さな手。 これは、つまり――。 「ストーップ!! ここまでです坊ちゃん!」 途端に眉を寄せ、不機嫌を露にする坊ちゃん。 べ、別に坊ちゃんに抱かれるのが嫌な訳ではありませんよ!? ただここまで坊ちゃんのために守り抜いてきたバックヴァージンを、このような状態で本当に良いのかと…それに、まさかの展開で……。 「なんだうるさいな、つべこべ言うな! お前は僕の妻だろう、口答えするなっ」 「ですがほら、坊ちゃんは今正気じゃないですし……」 「はあ!? その僕をどうこうしようとしていたのはどこのどいつだ! いいから黙ってやらせ……」 ――ぱたり。 おっと、ちょっと聞きたくない言動が聞こえそうになり、つい手が出ました。 ほとんど反射的に頸部に手刀を入れると、ぱたりと倒れる坊っちゃん。 「すみません坊ちゃん、つい手が出て……ほんとその、すみません………」 執事兼妻にあるまじき行為に、私は手をつき深々と謝罪しました。 ◇ その後ウィリアムさんにけしかけられたのでしょう、泣きながらやってきたグレルさんに私はあっさりと魂を引き渡しました。 坊っちゃんはもうすっかり、元通りです。 やっぱり、身体を乗っ取られた坊っちゃんなんて坊っちゃんじゃありませんよね! 私ったら妻失格です、どうかしていました。 ということで正気に戻った坊っちゃんに、謝罪を。 「坊っちゃん、その…先日は…」 「知らん!!」 「え」 「き、記憶に無いっ。もういいから、何も言うなっ」 「えー……」 そこまで言うと、くるりと椅子を回し背を向けてしまわれる坊っちゃん。 でも私は、確かに見たのです! 坊っちゃんのお耳が、真っ赤に染まっているのを!! 「その……僕はお前のプロポーズを受けたんだ。それは、そういうことだろう? お前が不安になることなんて、何もない」 「坊っちゃん……」 嗚呼、私の旦那様はなんて漢前なのでしょう!! このセバスチャン・ミカエリス、貴方に一生ついていきます! 「坊っちゃん、大好きです。私は間違っていました。やはり、そのままの貴方が一番です」 「……言ってろ」 嗚呼、なんて素敵な旦那様! 良きかな結婚!! 私は椅子ごと、ぎゅっと坊っちゃんを抱き締めました。 fin. |
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いつからだろう?気安く触れるのを許すようになったのは。
いつからだろう?口付けを許すようになったのは。 僕とセバスチャンの関係は、主人と執事であると共に、恋人でもあった。 好きですと言われ、優しく触れられる。 愛していますと言われ、キスを落とされる。 その時は、その甘い時間に酔いしれるが、その実、僕はあまりよく思っていなかった。 触れ方なんて、執事のそれじゃない。 キスだって、執事はしない。 していることは、恋人同士そのもの。だからきっと、僕たちは恋人で正しいのだろう。 でも。 好きだとか、愛しているとかの言葉だけじゃ足りなくて、 不安に駆られて肌を合わせる。 けれど、不安は消えるどころか膨らんでいくばかり。 信じていないわけじゃない。 愛しているからこそ、大切だからこそ、 形がないと不安になるんだ。 青の魔法 風のない、静かな夜。 セバスチャンの持っている蝋燭の灯りと、燃え上がる暖炉の炎が、部屋の中を優しく照らしている。 そういえば、あの日もこんな夜だった。 (壊れた指輪を戻してくれた、あの日も・・・) 「坊ちゃん。今夜は冷えますので、暖炉をいつもより暖かくしております」 暑くなったら呼んで下さいね、と言いながら、セバスチャンは燭台をサイドテーブルに置いた。 「ああ・・・」 シエルは気のない返事をし、ぼんやりと暖炉の火を見つめた。 パチパチと石炭の爆ぜる音が、心地良く耳に届く。 「どうかなさいましたか?」 シエルがあまりにもぼんやりしていたからだろう、セバスチャンが心配そうな顔で、彼の顔を覗き込んできた。 (こんなに優しそうな顔をされると、こいつが悪魔だという事を忘れそうになるな・・・) けれど、忘れてはいけない。 こいつは悪魔なんだ。 契約があるから傍にいて、こうやって仕えている。 「いや、ただ・・・静かだな、と思って」 「そうですね。雨も風もなく、今夜は静かですね」 穏やかな顔で同意したセバスチャンは、シエルの隣に腰掛けた。 すぐ隣に大好きな香りを感じ、シエルの顔は、自然と緩んでしまう。 手を伸ばせば、届く距離にある温もり。 今なら訊けるかもしれない。 あの時は疑問に思わなかったけれど、月日の経った今だからこそ、不思議に思う事。 「セバスチャン」 「はい、何でしょう?」 シエルが名前を呼び、セバスチャンの方を向く。そうすると、彼もシエルの方を向いて、視線を合わせてくれる。 悪魔の癖に、こうやって真摯に向き合ってくれるところが、シエルは割とと好きだった。 シエルは静かに息を吸い込み、左手の指輪に触れながら、ずっと考えていた事を口にした。 「あの時・・・リジーがこの指輪を壊してしまった時、どうしてお前は僕にこれを戻したんだ?」 「どうして、と言われましても・・・」 困ったように笑うので、訊かない方が良かったのかと不安になる。 「あの時も言いましたが、大切なものだったのでしょう?」 「それはそうだが・・・」 確かに、大切なものだった。 けれど、壊れた指輪を自らの手で棄てた事には、きちんと意味があったのだ。 覚悟を決めた上で手放したのに、すぐに手元に戻ってきてしまった。 もちろん、嬉しくなかった訳ではないが、胸の中には、複雑な想いが渦巻いていた。 『指輪がなくとも、ファントムハイヴ家当主は、この僕だ』 指輪がなくても、僕は誇りを失わない。 『指輪は幾度となく当主の断末魔を聞いてきた』 いつかは僕も、この指輪に看取られながら、断末魔をあげるのだろうか。 『指輪を棄てて、もしかしたら聞こえなくなるかもしれない・・・そう思ってた』 夜毎鳴り響く悲鳴の地獄から、解放されると思っていた。 前向きの気持ちと、後ろ向きの気持ち。 セバスチャンは気付いていたのだろうか。だから自分に、指輪を戻したのだろうか? 甘えは許さないと。 固く拳を握りしめていると、セバスチャンの手に包み込まれ、そっと拳を開かれた。 「実は、今まで黙っていたことがあります」 「!・・・何だ?」 突然の告白に、シエルの胸はざわめき立った。 不安に耐えるように、自分の手に触れているセバスチャンのそれを、強く握りしめてしまう。 「この指輪を貴方に戻した事には、二つの意味があったのです」 「二つの・・・意味?」 一つは、ファントムハイヴ家当主ならば、持つべきだという事だろうか。 だとしたら、あともう一つの理由は? 「ええ。指輪を棄てたところで、貴方がファントムハイヴ家の当主であるという事実に、変わりはない。 高貴な立場であり、高貴な魂を持つ貴方だからこそ、この指輪を持つべきなのです」 ですから、『この指輪は貴方の指に在る為のもの』と申したでしょう?と話される内容は、ほとんどシエルの予想通りだった。 「じゃあ・・・もう一つは?」 「もう一つは、私の願いです」 「願い?」 (この悪魔の口から、願いという言葉を聞くなんて・・・) シエルは、どこか滑稽な気分だった。 しかし、理由を話すセバスチャンの顔が、照れくさそうに微笑んでいる事に気付いたので、芽生えていた不安が少しずつ溶けてゆく。 セバスチャンがこんな顔をする時は、執事ではなく、決まって恋人の姿でいる時だから。 シエルにじっと見つめられ、セバスチャンは、その先の答えを求められていると気付いた。 いつかは話そうと思っていた、自分の願いを。 「坊ちゃんは、男が指輪を贈るという意味をご存知ですか?」 「!?・・・特別だって、言いたいのか?」 「ええ、その通りです。指輪なんて、誰にでも贈るものじゃないでしょう?」 (確かに) 指輪と言えば、恋人同士や夫婦の間で贈られるのが一般的だ。 (でも・・・) 「これは、元々僕の指輪だろう?お前の言っている意味では、筋が通らないじゃないか」 シエルに指輪を戻したのは、恋人だから特別に贈った、と言いたいらしい。 けれど、指輪は元からシエルのものなので、プレゼントとして贈ったことにはならない。 (一体どういう意味なんだ?) いつの間にか不安は消え去り、シエルの頭には、疑問ばかりが膨れ上がっていく。 「一度朽ち果てたものを再生し、貴方に戻す・・・一度死んで蘇った貴方には、その指輪ほど相応しいものはないでしょう?」 「・・・・・・ッ」 数年前の忌まわしい光景が頭の中を過ぎり、シエルはギリリと歯噛みした。 「それに・・・」 顔をしかめているシエルの頬に手を添え、セバスチャンはゆるりと撫でた。 宥めるように滑るその感触に、しかめていた顔の力が緩む。 「あの時の貴方に、特別な意味で別の指輪を贈っていたら、きっと受け取らなかったでしょう?」 「そう・・・かもな」 あの頃は、今よりも素直さがなく、意地を張ってばかりだった。 そんな自分に渡されたのでは、セバスチャンの言う通り、きっと受け取らなかっただろう。 今だからこそ、受け入れられる事実。 戻ってきた指輪に、そんな意味が込められていたなんて、ちっとも分からなかった。 セバスチャンの照れくさそうな顔や、頬を撫でてくれた手の感触を心の中で反芻し、シエルは指輪を愛おしそうに撫でた。 「今の話、そんなに嬉しかったですか?」 「ああ。・・・ずっと、形あるものが欲しかったから」 「・・・と、言いますと?」 初めて聞かされるシエルの本音に、セバスチャンは目を丸くした。 「好きとか愛してるとか、そんな不確かな言葉じゃなくて・・・何か形あるもので、お前の気持ちが欲しかったんだ」 だから、特別な意味を込めて戻されたこの指輪を、とても愛おしく感じるのだ。 「形なら、あるじゃないですか」 「・・・え?」 まるで至極当たり前のように言うので、シエルはポカンとセバスチャンを見上げた。 「貴方と私が、今こうやってここに存在している・・・それが、形ですよ」 「・・・でも」 「最初は主従として契約を結び、今はそれ以上に、恋人として傍にいる・・・それは、形にはなりませんか? 好きと囁くのも、愛していると触れるのも、貴方だけなんです」 (・・・そうか) 答えは、こんなにも近くにあったのだ。 セバスチャンの与えてくれるものばかりに目が行き、セバスチャン自身を見ていなかっただなんて・・・情けなくて笑ってしまう。 (セバスチャンにとって、僕が形ある餌や愛であると共に、僕にとっても、セバスチャンは形ある駒で愛なんだ) 「私の答え、お気に召して頂けましたか?」 「・・・ん」 シエルが寄り添うと、セバスチャンはその頭に手をやり、艶やかな髪を梳くように撫でた。 「それにしても・・・指輪を贈るなんて、まるで・・・」 「プロポーズのようですねぇ」 「ッ、そうだな」 もごもごと言えずにいた自分が馬鹿みたいに思えるほど、セバスチャンは、さらりと言ってのけた。 シエルが一人頬を染めていると、頭を撫でていたセバスチャンの手が、頬へと滑り落ちてきた。 一つ、触れるだけの口付けが落とされる。 「坊ちゃん。この指輪に、貴方の魂に誓います」 どこまでも坊ちゃんのお傍におります 最期まで――― END 【あとがき】 結婚がテーマなのに、暗めのお話になってしまい、申し訳ないです>< 指輪のお話は、いつか書いてみたかったので^^; ここまで読んで下さり、ありがとうございました!! 良野りつ |
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「セバスチャン、変な所はないか?」
朝から露出は苦手なのにと文句を言われ、ご機嫌斜めではありましたがスタジオに着き控室へ入ればソワソワしだして鏡と睨めっこを繰り返されるシエル。 「はい!360度どの角度から見ても完璧ですよ!とても、素晴らしいです!!」 私の言葉を聞き安心するシエルの可愛いらしさといったら…嗚呼、この場が寝室なら確実に押し倒していますのに! 「Newlyweds!②」 私の葛藤は本番直前まで続きましたが、なんとか耐える事が出来ました。 スタッフの方に呼ばれシエルと共にスタジオへ移動するも、シエルは余程緊張しているのか私の手を握り締めてきました! 「シエル?」 「…き、緊張して…上手く歩けないから……それに、安心するから…手、繋ぎたい…」 嗚呼、この初々しさに万歳!グッジョブ私!! 出演する事を必死に頼み込んで良かったです。シエルの姿を見ていて自分を褒めたい気持ちになりました。 「さぁ、シエル行きましょうか。段差があるのでお気をつけ下さいね?」 音楽が鳴ると同時にスタッフの合図があり前へと進み、司会者へ挨拶すると向かいにある椅子へ座るもシエルは立ち尽くしたままで…余程、緊張されているのですね。 「シエル、座って大丈夫ですよ。カメラの事は意識せず、いつもの貴方で…」 立ち尽くしたままのシエルに小声で話し掛ければ慌てて座り、俯いています。 まさか、これ程までに緊張されるとは思いもしなかった為…少し、可哀相になってしまいました。 「先ずは、自己紹介からどうぞ!」 司会者の方から自己紹介するようにと言われるとビクッとシエルの肩が跳ね上がり、安心させようと手をギュッと握り締めて差し上げました…嗚呼、食べてしまいたい! まぁ、流石にこの場で押し倒したりしたら一生、嫌われそうなので我慢しますが… 「私は、セバスチャン・ミカエリスです。年齢は…秘密です。職業は執事です」 会釈をしながら答え、シエルも自己紹介するようにと肩を軽く叩いて促せば耳まで真っ赤にして消え入りそうな小さな声で話して下さいましたが…残念ながら、マイクがシエルの声を拾えてません。 私の耳にはちゃんと聞こえてますけどね!マイクごときに負けるわけがありません!! 「彼はシエル・ファントムハイヴ。年齢は13歳で職業は玩具メーカーの社長であり、私の御主人様でもあります」 にっこりと笑みを向けて話せば司会者の方は何故だか驚かれているご様子… 何か問題発言でもしましたかね? 「…彼、本当に13歳なんですか?本当なら貴方、犯罪者じゃないですか」 「いえ、私はあくまで執事ですから」 私が最高の笑顔を浮かばせながら即答すれば周りはシーンと静まりかえってしまいました…おやおや、放送事故扱いされてしまいますよ?生放送でなくて良かったですねぇ。 「…え、あ……僕!こう見えて20歳なんです…セバスチャン、僕を永遠の13歳だと…ははは……」 突然の言葉に私は驚き、シエルへ視線を移すと同時に足を思い切り踏まれました…黙っていろという合図ですね。 しおらしい姿も素敵ですが、やはり気の強い方がシエルらしい。 「驚かさないで下さいよー、セバスチャンさんが真顔で言うから皆驚いたじゃないですか!」 私は嘘は言いませんのに…不満に思うもシエルからの「黙っていろ」という痛いぐらいの視線に黙るしかありませんでした。 「さっき、職業の時に執事と御主人様と言われてましたが…出会いはやはり職場ですか?」 「あ、違いますよ。シエルとの出会いは儀式で悪魔を召喚ふがっ!」 「セバスチャンは少し妄想癖があって…すみません」 シエル…酷いです。 クッションが顔へ勢い良く押し付けられたせいで整えた髪型が崩れてしまったじゃないですか…しかも、素敵な運命の出会いを妄想で片付けられてしまいました… 「セ、セバスチャンさんはユーモアのある人なんですね…」 司会者の方もきっと聞きたかった筈ですのに…残念です。 「お二人の付き合いだした経緯は?」 フフ、今まで途中で止められた分を此処で発揮させて頂こうではありませんか! 「それは勿論、私が空腹から我慢出来ずに無理矢理押し倒してしまった事から始まりですね、味を占めてしまった私は毎夜シエルの部屋へ夜這いに…そして、私はシエルを抱く内にそれは空腹を満たす為ではなく愛だと感じたのです!そして、告白したものの中々シエルには受け入れてもらえず…毎日が盗撮、視姦、シエルの使用済み物の回収でした……ですが、やっとシエルは私の気持ちを受け入れて下さり無事交際がスタート致しました」 おや、またシーンとなってしまいましたね…少し興奮気味に話してしまったからでしょうか? 隣のシエルへ視線を向ければ呆れたように私を見つめていました。 「私、何かやらかしました?」 「やらかし過ぎて…フォローする暇もなかった…」 撮影は何故だか途中で中止となり、スタジオから出て行く際にはシエルがスタッフ達や司会者の方から励まされていました。 「全く、何がいけなかったのか…ありのままをお話ししようとしただけですのに……」 折角、私とシエルの新婚記念になると思いましたのに… 「セバスチャン、待て!僕を置いて帰るつもりか?」 私の元へと駆け寄ってきたシエルへ視線を向ければ溜息をつかれてしまいました… 「全く、貴様は馬鹿か…馬鹿正直に答えて……」 「ですが、本当の事を言いたくて……私にはシエルとの素晴らしい思い出の数々なのです…」 「…分かったから、そんな顔するな。ほら、スタッフが参加の記念にとくれた物だ」 「おや…これは!」 シエルから手渡された袋を開ければ、中にはYES・NO枕が入っていました。 「撮影は中止になったが…僕はセバスチャンと過ごせる事が幸せだから……別に、記念とか必要ない…」 「シエルっ!」 なんて可愛いらしいのでしょう! 可愛いらしさに我慢出来ず、シエルを抱き上げると急いでマイホームへと光速の速さで帰宅致しました。 「あ!シエル、折角ですし先程スタッフの方から頂いた枕を使いましょう!」 着いて直ぐに寝室へと直行し、ベッドにシエルを押し倒しているのですが…恥ずかしそうにYES枕を私へ向ける姿が見たいと思った私はシエルへ袋ごと渡しました。 「…さぁ、YESまくぶふぉっつ!」 「NO!に決まっているだろ…全く、雰囲気をぶち壊して……昨日の躾だけでは足りなかったみたいだな!」 ベッドの上に仁王立ちして私を見下ろすシエル…確かにがっつき過ぎたのは認めますがシエル不足なのです。 控室の時からずっとムラムラしてるんですから! 「…っ、シエルー…」 「……夜まで待てれば…YES枕にするから…我慢しろ」 「シエルーっつ!大好きです!!」 嬉しくてシエルに飛び付けば重い苦しいと怒鳴られてしまいましたが…夜までお預けなので今の内にシエル補給です。 「シエル、有り難うございます…スタジオでの言葉、とても嬉しかったですよ」 「……何を言ったか忘れたな…」 照れくさいのかベッドの傍にある棚から本を取り出して読むシエル。 「ねぇ、シエル…私もシエルと一緒に居られるだけでとても幸せですよ」 「…そうか」 素っ気ない返答ですが声色から嬉しいという感情が伺え、私の表情は緩みそうになってしまいます。 「シエルは…幸せですか?」 「………幸せに決まっているだろ…分かりきった事を聞くな馬鹿…早く、おやつを持ってこないと夜もNO枕を投げ付けるぞ!」 「フフ、有り難うございますシエル。愛するシエルの為に頑張って作ってきますからね!」 新婚記念にテレビ出演し、思い出を作ろうと思いましたが…毎日が思い出なのですから私達には必要なさそうですね。 end... ------------------- 「Happy Wedding」という素晴らしい参加させて頂き有り難うございました。新婚、実に素晴らしい企画であります!! 新婚=某番組でして…参加させて頂く事になってから私は某番組ネタを使おう!と思っていました。 ただ、書き終えてから心配になった事がありまして…某番組って関西だけじゃないですよ…ね? 関西弁は苦手な方がいらっしゃるかもと思い標準語ですが、実際の某番組では司会者の方はばりばりの関西弁です。 最後まで読んで下さり有り難うございました。 |
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私と坊ちゃんがお忍びで結婚し、早いものでもう六ヶ月という月日が経とうとしています。
幸せな日々が続くと月日が経つのは本当に早いものです…そこで、私は過ぎていく日々を特別なものにしようと色々と考えていました。 特別なものにする為にはと悩んでいたのですが、ある日偶然テレビを見た時にその方法を見付ける事が出来ました。 その方法を実行するにはまず、マイラブリーハニーに相談です! 「Newlyweds!①」 「坊ちゃ…いえ、マイラブリーハニーシエル!折り入ってお願いがあるのですが…聞いて下さいますか?」 お願いを快諾して頂く為にと用意しておいたフルーツタルトを差し出しながら尋ねかけるも何故だか睨みつけられてしまい、不思議に思い首を傾げれば溜息…私、何か仕出かしたのでしょうか? 不機嫌ですと了承どころか話しをまず聞いて頂く事が難しいのです…困りましたね。 「あの…私、気付かない内に何か仕出かしてしまいましたか?」 様子を伺いながら尋ねかければ可愛いらしい口から深い溜息が漏れ出しました。 「…その、長ったらしい呼び方で僕を呼ぶのを止めろ。何がラブリーハニーだ、変な名前をつけるな……それを止めたら話しを聞いてやる」 嗚呼、機嫌が悪いのかと思っていましたが…照れていたのですね! 良く見てみるとお顔がほんのり赤みを帯びていました。 触れたい吸い付きたいという願望を必死に堪えるのが大変です。 「フフフ、マイハニーは照れ屋さんですねぇ…」 「照れてない!あー、もう…シエルで良い!これからは…その、シエルと呼べ…」 「おや、名前で呼ばれたいのですか?」 「…っ!う、うるさいっ!!」 おやおや、名前で呼ばれたいというのは図星でしたか。 坊ちゃん…いえ、シエルは本当に可愛いらしい。私は世界一だけではなく魔界一の幸せ者です。 「セバスチャン、早く用件を言え!僕は暇じゃないんだぞ!」 喜びに浸っていると用件を言うようにと催促されてしまいました。 シエルってば、せっかちさんなんですから…ですが、そんな所も愛おしいですけど! フフ、惚気てしまいました…が、そろそろ言わないとご機嫌ななめになるのでお話ししましょう。 「シエルにお願いしたい事がありまして…人間界の長寿番組にシエルと共に出演したいのです。結婚してから三年以内の夫妻が対象で…その番組に出るのは今しかないのです!」 「別に今でなくても良いじゃないか…まだ半年経ったばかりだろう?」 結婚してから半年経ったと覚えて下さっていた事に感動しましたが…絆されては駄目です。 「悪魔の三年は早いのです…本当にあっという間に過ぎてしまうのですよ?」 「面倒だし家でケーキでも食べながらその番組を見ている方が良い」 「シエル、所帯じみたことを言わないで下さいよ!まだ新婚ですよ?シエルは私の新妻なのですよ?」 まさかの即答。 まぁ、アクティブな方ではありませんしメディア露出されるのも苦手ですからね…断られる覚悟はしていましたが即答ですと説得出来るか不安になって参りました…… ですが、どうしても今回ばかりは譲れないのです! 「シエル、お願いします…どうしても貴方と出演したいのです……私に新婚の喜びを思い出として残させて下さいませんか?私…今まででこんなにも幸せを感じたのは初めてなのです……どうしても駄目ですか?私の滅多にない願いを聞いて下さいませんか?」 真剣に語りかければ私の勢いにたじろぐシエル。 シエルはなんだかんだで私に弱い…本当に可愛いらしいですねぇ。 「分かった…出る……出れば良いんだろう……」 「シエルー!有り難うございます!有り難うございます!大好きです!!」 「だ、抱き着くな馬鹿…」 これで無事シエルと共に出演する事が出来ます! 駄目元でも言ってみるものですね。 「だが、出演するには応募が必要なんじゃないか?」 「あ、ご心配には及びません!既に出演出来るように手は打っていますから!」 「…え?」 出演出来るようにと応募し、見事勝ち取ったハガキを胸ポケットから出して誇らしげにシエルへ見せれば「騙された」と呟きが聞こえましたが気にしません! 悪魔たる者、欲求には忠実に!尚且つ、用意周到に!ですよ。 「あ、シエルシエル!明日に出演予定なのでお願いしますね!」 疲れたと言われ自室へ戻ろうとするシエルに重要な事をお伝えし忘れていたので追い掛けて話したわけですが…振り向いたシエルの顔は……それはもう、とても怖いお顔でした。 「…なっ!あ、明日だと!?貴様、ふざけるな!新婚だからと甘くみていたら…躾直す必要があるみたいだな!」 「あ、あの…明日はテレビ出演で…その、出来るだけ顔は止めて頂けると有り難いのですが…」 「黙れ、問答無用だ!この…あっ、待て!逃げるなセバスチャン!!」 「シ、シエル!ストップストップ!落ち着いて下さいーっ!!」 その後、私はシエルからの愛の鞭に打たれたりと大変な思いをしました…自業自得なのは承知ですけどね。 * 「ふぅ…、シエルの女王様気質は健在なのですね」 「そう言うお前も変態気質は健在じゃないか。鞭打ちで気持ち良さそうな顔をしていたぞ?」 眠っていると思っていたシエルが目を開けて私へ苦笑い混じりに話す…確かに、少し感じましたけどね。 「気のせいですから!私、感じていませんよ!!」 「そうか?」 「気のせいと言ったら気のせいです!それより早く眠って下さい、明日は早いですし…早く眠って下さらないとシエルがこんなに近くにいるので私、ムラムラしてしまいます」 「お、おやすみっ!もし、寝ている間に変な事をしたら出演するという話しは無しにするからな!」 「そんなに慌てなくても…少し傷付きます」 私に背を向けてしまうシエルに苦笑い混じりに呟き、眠りやすいようにとシエルの頭を撫でれば暫くするとスースーと可愛いらしい寝息が聞こえてきました。 バタバタしましたが無事、出演へと漕ぎ着く事が出来き一安心です。 明日の為にも私も準備をしなくてはいけないので名残惜しいですが、シエルから離れ洋服を選んでいきました。 「シエル、明日は全国のお茶の間の皆様に私とシエルのイチャイチャっぷりを見せ付けましょうね?」 「んー…んぅ……」 世界一幸せな新婚さんは私達に決まっています! 「あ、そういえば…出会いのきっかけや結婚生活に至るまでのエピソードを語る事をシエルからの躾を受けていたせいですっかり伝え忘れていましたね…また怒られてしまいますかねぇ……明日は覚悟しておかなくては…」 →next |
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