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「without you」
○月×日 結婚式翌日 朝、目が覚めると、シエルが一糸纏わぬ姿で私の腕の中で眠っていた。 長くやわらかなブルネットの髪が少し乱れ、広がっている。 白く磁器のような肌には不釣り合いなほど、その華奢な身体のいたるところにいくつも の赤いバラが咲き、自分のものだと主張しているようで少し恥ずかしくなる。 昨夜は、夢中でお互いがお互いが求めあい過ぎてしまった。 シエルの身体に負担をかけてしまったかもしれないと不安になってしまう。 それでも、夫婦になって初めて迎える朝。 いつもより新鮮に感じるのは、気のせいでしょうか? シエルの穏やかな寝顔は、まだあどけなさが残っていて、昨夜の乱れた姿は誰も想像で きないでしょうね。 いいえ、誰にも想像させたりしませんが。 眠っているシエルのベリーのように色づいたやわらかい唇にキスをすると、シエルは、 目蓋をゆっくりとあけ、自分が何も纏っていないことに気付いたのか、白い頬をほんの りとバラ色に染めている。 何と初々しいんでしょう。 「おはようございます、シエル」 「おはよう、セバスチャン」 もう一度、軽くキスをすると、シエルを強く胸元に抱き寄せた。 「もう少し幸せな時間を過ごしてもいいですか?」 「・・・私もそうしたい」 私の問いかけに、小さな声で答えると、大きな青と紫のオッドアイの瞳を閉じる。 甘い香りのする髪に顔をうずめ、その匂いを堪能する。 あぁ、今日からシエルは私の妻なのですね。 公の場所でもやっとそう答えることができることが嬉しい。 今までは主人と使用人という立場でしたから、シエルとの関係はずっと秘密にしていま したし、そのことでシエルには、寂しい想いや辛い想いをさせてしまったこともたくさ んあるでしょう。 これからは、そんな想いをさせなくて済むことがとても嬉しい。 シエルはどう思ってくれているのでしょう? 「シエルは、私を夫として、みんなに紹介できることは嬉しいですか?」 「あ、当たり前でしょう。ずっとそうなれば良いと思っていたんだから・・・」 シエルはそっけない口調で言ってますが、こういう言い方をするときは、照れている時 なんですよね。 10歳の時からそばにいて、大事に愛しみながら、育ててきたのですから、シエルの言 動の裏にある本心なんてお見通しです。 本当は一日中、シエルとベットの上で抱き合っていたいところですが、執事としての仕 事も私の大事な役目。 「そろそろ朝食の用意を致しましょうか、シエル」 額に軽くキスをする。 シエルは大きな青と紫のオッドアイの瞳で見上げると、美しい眉根をよせ、不満そうな 顔をする。 「セバスチャン。朝食はもう少し遅くても良いわ。もっとこうしていたい」 シエルは細い腕を背中にまわし、自分の身体をすりよせてくる。 やわらかな胸が胸元に押しつけられ、軽く眩暈がする。 「私もシエルと同じようにこうしていたいですよ。でも、今日は会社の仕事もあります し・・・」 「全部、キャンセルするわ」 シエルはきっぱりと言い切る。 「そういうわけにはいきません。お互いがお互いの仕事をきちんとする。それは、約束 しましたよね?」 「そうだけど、一日ぐらいいいでしょ?今までだって、そういうことはあったんだし」 確かにそういうことはありましたよ、私のせいで・・・。 困ったように考えこんでいる私をシエルは、くすくす笑いながら見上げる。 「冗談よ。セバスチャン、本気で考え込まないでよ」 真剣に悩んでいたんですけど、私は。 「・・・困った奥様ですね、シエルは・・・」 華奢なシエルの身体の上に覆いかぶさると、やわらかなブルネットの髪をなでる。 「セバスチャンを一生困らせるかもよ、私、我儘だから」 私の頬にかかった髪を耳にかけ、そのまま整えられていない髪に指を絡める。 まっすぐに私を見つめる瞳は、迷いがなく、いまだ穢れを知らない少女のように美しい。 シエルが「女王の番犬」だと言っても、誰も信じないだろう。 今までどれだけの血を流し、女王の憂いを晴らしてきたことか。 そばでみてきた私しか知らない、シエルの本当の顔。 「知っていますよ、貴女がどれだけ我儘か」 シエルの額に、頬に、鼻に、瞳にキスをおくる。 くすぐったそうに、瞳を細めるシエル。 「私も知っているわ、セバスチャンがどれだけ我儘か」 「私がいつ我儘をいいましたか?」 「我儘とは言わないのかしら?私をどんな時でも、独占したいと思っていることを」 確かに、私の我儘かもしれないですね。 シエルに近づく者は、誰であっても嫌だと思ってしまうのは・・・。 「・・・気づいてましたか?」 「私もきっと同じ気持ちだから。・・・いつでも私だけを見ていて欲しい。私の事だけ 考えていてほしい。他の女性と話さないでほしい・・・。私だけのセバスチャンでいて」 少し照れたように、はにかんだ笑みを浮かべる。 「私も、同じことをいつも考えていますよ。私だけのシエルでいてほしいと・・・」 シエルの耳元で甘く低く囁くと、そのまま耳朶を軽く噛む。 「・・・ん・・・」 白い首筋に顔をうずめると、昨夜つけたばかりの赤いバラを舌でなめていく。 「・・・ダメだってば・・・」 口ではそう言っているシエルだが、大きな青と紫のオッドアイの瞳は、これから与えら れるであろう快感を思い出しているのか少し潤んでいる。 「ダメと本気で言っているようには、見えませんよ」 「意地悪ね、セバスチャン」 赤く色づいたやわらかな唇に、軽く唇を重ねる。 シエルは少し唇をあけて、自らセバスチャンの舌を招きいれた。 「・・・ん・・・セバ・・・」 甘い吐息の合間にいつものように自分の名前を呼ぶシエル。 舌を絡めあい、少しずつシエルの息つぎの間を奪っていく。 全てを奪ってしまいたい。 結婚し、自分の妻になったというのに、それでも満足できない自分がいる。 どこまで、私は独占欲が強いのでしょうか・・・。 大切に育てた純粋無垢な美しい白薔薇のようなシエルを、自分の手で赤く燃えるような 妖艶な真紅の薔薇に変えたのも、私なのに。 これ以上、何を望んでいるのでしょう。 シエルの細い腕が首に回され、強く抱き寄せられる。 私の想いに応えようとしているようで、愛しさがこみあげてくる。 「・・・愛しています、シエル」 「私も愛してるわ、セバスチャン」 シエルの華奢な身体を強く抱きしめ、このまま離れられないようになってしまえば良い のにと思う。 一つになれたらいいのに・・・。 「そろそろ起きないと、みんなに心配されてしまいますね」 「心配はしてないと思うけど・・・。みんなが気にしているのは、セバスチャンの美味 しい朝食がいつ食べられるか、じゃないかしら?」 シエルは、私の背中に細い指を滑らせていたが、ある個所で手を止めると、 「・・・まだ、痛い?」 小さい声で呟くように言う。 あぁ、昨夜シエルが爪をたてた所ですね。 「痛くないですよ。シエルに愛された証ですから」 「・・・・・・」 シエルははずかしいのか黙ったまま、肩口に顔をうずめている。 「今夜もたくさん愛しあいましょうね、シエル」 「・・・・・・」 無言のまま、こくりとうなずく。 ベットから起きると、シャツを羽織り、衣裳部屋を通り抜け、浴室へと向かう。 シャワーをすばやく浴び、いつもの自分の仕事着・・・燕尾服を身につける。 寝室へと戻ると、シエルにしては珍しくベットに横になったまま、うとうとしていた。 「昨夜はおやすみになったのも遅かったですし、もう少し寝ていてはいかがですか?」 シエルの小さな頭を優しくなでると、 「・・・そうするわ。あとで、ちゃんと起こしてね」 口元を隠しながら、あくびをする。 「かしこまりました。朝食の用意をしたら、起こしに参ります」 白い頬に軽くキスをすると、シエルは瞳をとじた。 シエルを起こさないように静かに扉を閉め、1階の私専用のキッチンに向かうと、バル ド、フィニ、メイリンが、椅子に座り、私を待っていたようです。 「・・・セバスチャンさん、遅いですよ。お腹がすきすぎて動けません」 フィニは目を潤ませながら、詰め寄ってくる。 「なんでこんなに遅いんですか、セバスチャンさん」 その言葉に、バルドがすぐに反応し、にやにや笑いながら、私をみる。 「そりゃ、昨夜はお嬢様との初夜だったからだろう?」 「初夜ってなんですか?」 フィニは、無邪気に聞いてくる。 メイリンは、恥ずかしそうに頬を赤く染め、黙ったままだ。 「お子様のフィニにはまだ早い話しだよ。で、どうだった?」 バルド、少しは気をつかったらどうですか? 私はにっこりと笑いながら、いつものようにトリプルアイスを頭にのせた二人を横目に、 一人お茶を飲んでいるタナカさんに挨拶をする。 「・・・遅くなってしまい、申し訳ありませんでした」 「ほほほっ」 上着を脱ぎ、椅子に掛けると、とりあえず、シエル以外の4人の食事の用意を手早く始 める。 大体、バルドはコックなのですから自分の食事は、自分で作ったら良いのにと考えたが、 バルドの料理は食べられたものではないし、キッチンを破壊されても困るので、何もし ないで待っていたことをよしとしようと思うことにした。 食事の用意を終え、4人が食事を始めたのを見ながら、シエルの朝食をどうしようかと 考える。 もう少し寝かせてあげたい気持ちもある。 だが、昨日は挙式の為、仕事を全てキャンセルしている分、しなければならない仕事が たくさんあるのも確かで・・・。 一度、執務室に戻ると、机の上の会社の書類にすばやく目を通し、今日中の処理が必要 なもの、猶予があるものと手早く分けていく。 これで少しでもシエルの寝ていられる時間が増やせるはず。 厚いカーテンの引かれた寝室へと続く扉をあけ、足音を忍ばせて、ベットに近づくと、 シエルはベットの真ん中で丸まって眠っていた。 やっぱり眠かったのですね・・・。 昨夜は無理をさせてしまったのを私に気づかせないように、気を使っていたのかもしれ ないですね。 少し私も我慢しないといけないですね。 大切なシエルに無理をさせるわけにはいかないですし。 ベッドサイドに座り、眠っているシエルの顔を見ていると自然と笑みがこぼれてくる。 「・・・う・・・ん・・・」 シエルが寝がえりをうつと、華奢な身体を包み込んでいたシーツがはだけ、ふくよかな 胸が露わになってしまった。 ドキッと胸が高鳴る。 白く瑞々しく張りのある乳房にも、他の部分と同じように赤いバラがところどころに咲 いている。 長いブルネットの髪が華奢な身体にこぼれおちるように広がっているのも、また艶かし く感じてしまう。 こんな姿をみていたら、我慢が出来なくなってしまいそうだ・・・。 私は、シーツをゆっくりとシエルの身体にかけると、入ってきたときと同じように、静 かに部屋を後にした。 お昼近くになり、台車に昼食と紅茶を用意し、寝室へと向かう。 そろそろシエルは起きているでしょうか? 寝室の扉をノックするが、返事がない。 扉を開け、ベットをみると、シエルはまだぐっすり眠っていた。 「・・・シエル、そろそろ起きませんか?」 耳元で甘く低く囁く。 「・・・ん・・・今、何時?」 シエルは、瞳をこすりながら、目蓋をゆっくりあける。 「申し訳ありません。もうすぐ、お昼になります」 「・・・起こしてって言ったのに」 シエルは、身体を起こそうとしたが、自分が何も身につけていないことを思い出し、シ ーツを華奢な身体に巻きつけて、身体を起こす。 「あまりにも気持ちよさそうに眠っていましたので・・・」 厚いカーテンを開けると、部屋の中が白い光に包まれる。 シエルのお気に入りの白地に青いバラの模様があしらわれたティーカップに紅茶を淹れ るとシエルに手渡した。 「・・・ありがとう」 ブルネットの長い髪を耳にかけると、紅茶の匂いを楽しみ、一口飲む。 「昼食もお持ちしましたので、寝室でお召し上がりください」 「ありがとう。その前に何か羽織るものが欲しいわ」 シエルは、白い頬をバラ色に染める。 恥じらうシエルは本当に可愛いらしいですね。 赤いガウンをソファーからとると、シエルからティーカップを受け取り、変わりにガウ ンを手渡す。 そのままシエルを見ていると、シエルは困ったようにうつむく。 「どうしたのですか、シエル?」 「みられていると、恥ずかしいんだけど、セバスチャン・・・」 明るい所で見られるのは、まだ抵抗があるのですね。 内心、苦笑しながら、私はシエルに背を向ける。 「これで良いでしょうか?」 「・・・うん」 衣擦れの音が微かに聞こえる。 こういうのも、どきどきするものなのですね。 「こっち向いていいわよ、セバスチャン」 赤いガウンを身にまとい、ベッドサイドにシエルは座っていた。 シエルの細く白い足が、赤いガウンから見えているのが、また艶かしい。 はぁ~、私は一日中、気がつくとこんなことばかり考えているのですね。 これもシエルが魅力的な女性だからなのでしょう。 サンドイッチを小皿にいくつかとりわけ、シエルに手渡す。 「仕事は今日中にシエルの承認が必要な物、猶予があるものと分けておきましたから、 そんなに仕事の量はありませんから、安心してください」 「ありがとう、セバスチャン。とても助かるわ」 サンドイッチを食べながら、微笑むシエル。 「ファントムハイブ家の執事もとい主人たるものこれくらいの事ができず、どうします か?」 「・・・でも、なんだか今日は嫌な予感がするのよ」 シエルは顔を曇らせる。 やっぱりシエルも感じていたのですか。 「実は、私もなんです。昨日の、今日ですし・・・」 「あの人たちが大人しくしているはずないんだから」 サンドイッチの小皿を受けると、新しく淹れた紅茶をシエルに手渡す。 「は~、少し気が重いわ。てっとり早く帰す方法はないものかしら?」 「そうですね。とりあえず、入浴の用意をして参ります」 「お願いするわ」 新婚の二人が頭を悩ませる問題。 それは、あの方達のこと以外ありません。 昨日の式にもよんでいませんし、何を言われるのでしょうね。 多少の事は、目をつぶるとしても・・・。 シエルは諦めたのか、入浴中には赤やピンク、白の薔薇の花びらを浮かべ、薔薇のオイ ルの入った乳白色のお湯を楽しんでいた。 「来るものは来るんですもの。悩む方が時間がもったいないわ」 確かにそうですね。 来るものは、仕方ないとは思うのですが、新婚の二人の甘い時間を壊しに来るのが許せ ないんですよね。 今までも甘い時間を過ごそうとすると、タイミングを見計らったようにやってきますし。 何かそういうのを感じるセンサーでもついているのではないでしょうか? シエルのブルネットの長い髪にトリートメントを丹念に施しながら、あの飄々とした顔 を思い出すとだんだん腹が立ってきてしまいました。 これでは執事失格ですね。 私のシエルに冗談なのか、本気なのかわからないような様子で絡んできますし。 あの人の考えていることだけは、いつまでたってもわかりません。 だからこそ、気を許すことができないということも言えますが。 「さっきから黙っているけど、どうしたの、セバスチャン?」 シエルは、お風呂に浮いている薔薇の花びらを手ですくいながら、私の方を不思議そう にみている。 「いえ、今日のスイーツは何にしようかと思いまして・・・」 「パフェ的なものが食べたいわ」 シエルはにっこりと愛らしく微笑む。 トリートメントを終えたブルネットの髪の水分を丁寧にふきとっていく。 「そろそろ上がりたいんだけど・・・」 いつも長湯になってしまうシエルの為に、低い温度にしてあったのだが、白い頬はバラ 色に染まり、華奢な身体もほんのりピンク色に染まっている。 立ち上がったシエルの身体を包み込むように、バスタオルでくるむ。 昔は毎日こうしていたのだけれど。 シエルは、恥ずかしそうにバスタオルを自分で押さえると、足早に衣裳部屋に移動する。 結婚をして伯爵夫人になったからといって、急に服装が変わるということもなく、私の 好みの問題もありますが、首元を白いリボンで飾られ、淡い水色のスカートの裾にたっ ぷりのフリルがついている豪奢なひざ下のドレスをシエルに着せる。 首元が空いている服では、私の所有印が見えてしまうかもしれませんし・・・。 足には、細身の黒いブーツをはかせる。 髪はおろしたままドレスと同じ色のレースのヘッドドレスを結ぶ。 結婚前と何も変わらない服装のシエル。 幼妻ですし、しばらくの間はこの格好でも良いでしょう。 「なんだか、子供っぽくない?」 鏡を見つめるシエルは、心配そうに私の方を振り返る。 「そんなことないですよ。よく似合ってますよ」 室見室へと続く扉を開けようとしたシエルは、人の気配を感じたのか、ため息をつく。 「・・・もう来てるわ」 「あれ~、伯爵。どこにいるのかと思ったら、執事君と一緒だったんだね」 藍猫を横に座らせ、劉はソファーでくつろいでいた。 「人の屋敷で何をしているの、劉?」 シエルは、劉の斜め前のソファーに座るとふわりとドレスのすそが少し舞い上がるが、 そのまま足を組み、じっと見つめている。 「いや、伯爵が執事君と結婚しちゃったって言うから、本当か確かめに来たんだよ。我 の求婚を断り続けてきた伯爵がどうしているか、心配になって見に来たってわけ~。で、 伯爵、結婚してどう?」 「どうも、こうもないわ。昨日だって、見に来てたじゃないかの、劉?」 「気が付いていたのかい、伯爵。・・・人が悪いな~」 「小生もみていたよ。墓場からね・・・」 アンダーティカーと劉の組み合わせなんて、性質が悪すぎる。 「セバスチャン。この3人でも一応、お客様。悪いけど、紅茶の用意を頼んでもいいか しら?」 「かしこまりました」 いつものように恭しく頭を下げ、部屋をあとにする。 残してきたシエルの事が心配ですぐに、紅茶の用意とスイーツの用意をすると、執務室 へと向かう。 執務室に近づいていくと、中から話し声がもれ聞こえてきた。 「伯爵、まだ若いのに、執事君と結婚しちゃってよかったのかい?」 「・・・結婚は人生の墓場、というくらいだからねぇ・・・」 あの二人は私のシエルに何をふきこんでいるのでしょう。 「いいのよ、私が望んだことだもの。後悔なんてしていないわ」 きっぱりと言い切るシエルに、私は感動しました。 「後悔をするとしたら、セバスチャンの方じゃないかしら?・・・女王の番犬にならな いという人生もあったのに、私と生きる道を選んでしまったのだから・・・」 まだそのことを気にしているのですね、シエル。 私はシエルと生きる道を選んだと言ったのに。 そのことを気にしながら、貴女はこれからも生きていくつもりですか? 扉をノックし、失礼致しますと部屋に入ると、一礼をする。 「セバスチャン、ごめんなさい。貴方は、もう執事ではなく、私の主人なのに・・・」 シエルはすまなそうに言うと、突然窓が開き、赤い物体が目の前を通り過ぎていく。 とっさにシエルは、スカートの中から2丁の銃を取り出すと、赤い物体に向かって、2発 ずつ銃を撃つ。 「・・・ちょっと、あんた、今本気で殺そうとして撃ったでしょう!!」 グレルの赤いコートに2か所と頭の上の壁に2か所穴があき、ひらりと赤いグレルの髪の 毛が舞っている。 「相変わらず騒がしい死神ね。私が本気で撃ったら、1発で死んでるわよ」 シエルはにっこりと微笑む。 「セバスチャン、こんな凶悪な乳臭い人間の女よりも私の方がよっぽど女らしいわよ。 今からでも、遅くないわ。結婚なんて、やめちゃいなさいよ」 マダム・レッドから結婚の事を聞いたのだろう。 私は最初から貴方に興味などないと言ったはずですが・・・。 抱きついてこようとしているグレルの首元にナイフをあてる。 「グレルさん、私は貴方に興味はありませんよ。いつも言っていますよね」 冷や汗をかきながら、グレルは後ずさりをする。 「いやだわ、セバスチャン。じょ、冗談に決まってるじゃない」 慌てたようにアンダーテイカーのそばに小さくなって座る。 貴方の冗談はいつも冗談ではないでしょう。 念の為、一つ多く用意しておいたティーカップが役に立つとは・・・紅茶を淹れ、それ ぞれの客人の前におく。 私は、いつものようにシエルの後ろに控えるように立つ。 「わかっているとは思うけれど、今日からファントムハイブ家の爵位は、セバスチャン が継承する事になっているの。これからは、私の変わりにセバスチャンが裏の世界の統 治者になるから。そのつもりでいてね」 穢れなき美しい微笑みを浮かべるシエル。 「残念だな~、伯爵が伯爵じゃなくなっちゃうなんて・・・」 劉は細い目をさらに細め、つまらなそうな口調で言う。 「私は伯爵夫人になるだけよ。これからは、セバスチャンと二人でファントムハイブ家 当主として、裏の世界を統べていくの。私は、セバスチャンのファントムになるの」 シエルの肩に優しく手をのせると、私の手にシエルは自分の手を重ねる。 私の『ファントム』になると言うのですか、シエル。 「私とシエル、二人でファントムハイブ家の当主になるのですよ。二人で一人です。一 人がかけてもダメなんですよ。わかっていますか?」 青と紫のオッドアイの瞳を細め、振り返ったシエルのやわらかい唇に自分の唇を重ねる。 一瞬、部屋の空気が止まったが、そのまま気にせず、シエルの唇をやわらかく啄ばむよ うにキスを繰り返す。 「・・・なんか執事君に、見せつけられちゃった感じがするね~」 劉は首を振り、藍猫に向かって話しかける。 「・・・・・・・うん」 スイーツを黙々と食べていた藍猫はうなずく。 「・・・人生は一度きりだよ、伯爵。今日は、良いもの見せてもらったよ~」 アンダーテイカーは立ち上がると、部屋を後にした。 「私のセバスチャンが・・・。ウィルに慰めてもらわなきゃ」 グレルは入ってきたときと同じように、窓から帰っていく。 「愛していますよ、シエル」 「愛してるわ、セバスチャン」 額を合わせて、二人で微笑みあう。 こんな幸せな毎日がずっと続いて行くように、今は神様に祈ろう。 「セバスチャン、ねぇ、これなに?」 夜、入浴の用意をしていた私の所に、シエルが見覚えのある一冊の本を持ってくる。 「そ、それは・・・」 私の異常なほど焦っているのを見て、シエルは何かを感じたようだ。 シエルのそばに歩みよって、本をとろうとしたが、身軽なシエルにかわされてしまう。 「何が書いてあるのかしら?って、なんで、フランス語の鏡文字なの?」 あまりの念の入れように、シエルは呆れているようだ。 「だ、だめですよ、シエル。人の日記を読んでは・・・」 シエルを後ろから抱きしめると、つい言ってしまった。 「やっぱり日記だったのね。な、なに、これ・・・!!」 シエルは、白い頬をバラ色に染め、日記をパタンと閉じると私に手渡す。 「・・・誰にも、見せないでね」 面白半分で、シエルに自分の得意なフランス語の鏡文字の見方を教えたのは、私自身な のだから。 物覚えがいいシエルが読めないわけがないのだ。 「誰にも見せませんよ」 「・・・絶対よ」 シエルと出会った日からずっと日記をつけているなんて、口が裂けても言えない。 隠し撮りした写真のアルバムもたくさんあるなんて事も・・・。 明日、シエルに見つからないような所に全て隠しておかなければ。 それにしても・・・隠しておいた日記がシエルの目につくような所にあるなんておかし いですね・・・。 私は、首を傾げる。 まさか・・・と思う。 「さあ、シエル。今日は、一緒にお風呂に入りましょうか?」 「・・・恥ずかしいから、イヤよ」 シエルを抱き上げて、お風呂に向かっていく。 「では、キャンドルの数を少なくして、一緒に入ると言うのはいかがですか?」 「・・・それなら、考えてもいいわ」 私の黒いタイをシエルは緩めほどくと、足元に落とす。 シエルにシャツのボタンをはずしてもらいながら、猫足のバスタブへと向かう。 「ぬるめのお湯にしてありますから、のんびり楽しめますよ」 「・・・エッチ」 そんな顔で言ってダメですよ、シエル。 全く嫌そうな顔をしていないのですから。 END ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ 月の雫と申します。 「24/7」の続編、新婚編の物語になっています。 稚拙な文章ですが、少しでも楽しんで頂ければと思っています。 PR |
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「永遠の契約を」
シエルは兎に角、機嫌が悪かった。 食事中も、執務中も常にイライラしていた。 それと言うのも常に傍に仕えている黒い執事のせいなのだが、本人は至って涼しい顔。 セバスチャンは、自分の想いを告げたのだから、不機嫌である筈がない。 一方のシエルの機嫌は、地の底を這っている黒々とした闇に包まれた様な暗いものだった。 フゥ・・・とシエルは溜息をつく。 「何で今頃あいつは・・・」そう全ては数日前のベッドの中の出来事・・・ いつもの様にセバスチャンは、全ての業務を終えたら、主のシエルの寝室に戻るのだ。 恋人の時間の為に・・・数日前の夜もいつもと変わらぬ、熱い夜・・・ 筈だった・・・ しかし、セバスチャンはいつもと違ったのだ。 自分の想いを告げる為に、シエルに告げた。 「坊ちゃん、結婚して下さい。」想いもよらぬ言葉・・・ 「はっ?」シエルは、訳が解らず、聞き返した。 「ですから、私と結婚して、永遠の契約を」「どうしてそうなる?お前は、僕との契約を終えたら、この魂を喰らい、僕の生を終わらせてくれるんだろう?それが僕達の契約だったじゃないか?何を今更・・・」「ああ、言葉が足りませんでしたね、貴女を愛しています。私が貴方の魂を喰らったとしても、貴方の全てを奪い尽くさぬ限り、貴方は死ぬ事はありません。ですから、私の伴侶としての契約を」「契約違反だ!今更そんな事言うな!チェックメイトが近いんだろう?だが、僕はお前と共に生きるつもりはないんだ・・・知ってるだろう、お前だけは、僕の全てを真実を知ってる唯一の存在なのだから・・・」シエルは泣きながらセバスチャンのシャツを掴む。 セバスチャンを愛している・・・だからこそ魂を捧げ、一つになって「人」と言う柵から逃げたかった。 しかし、セバスチャンの言う「永遠の契約」をしてまで生き続けるつもりもないシエルだった。 「嘘を吐く」事に耐えられなくなってきたから。 「申し訳ございません、坊ちゃん、貴方を苦しめてしまいました・・・それでも私は、貴方と共に生きたいのです。貴方を失いたくないから・・・悪魔のくせに愚かだとお笑い下さい。私は貴方を殺せない・・・」セバスチャンは嘘偽りのない本音を吐露した。 しかし、シエルには、受け止める事など出来はしない。 全てを終え、復讐に生き、悪魔であるセバスチャンを駒として使い、その手を血に染めたのだ。 許される事はない己の罪・・・ 犠牲を払ってまで、唯、自分のプライドを守る為の復讐に過ぎないのだ。 手を血に染めた自分が、失った大切な人を忘れ、セバスチャンと共に生きる事など出来ないのだ。 シエルもセバスチャンを愛しているから、自分に縛り付けたくないのだ。 首に鎖をつけ、拘束している今の状態から、一日も早く解放してやりたいのに、シエルの前に敵は一向に姿を現さなかった。 セバスチャンはシエルを優しく抱き締める。 「坊ちゃん、私が性急過ぎました。貴方と愛し合う毎日に浮かれ気味でした。下僕の身では、過ぎた願いかも知れません。それでも、いつか貴方が私を見て下さる事を望みます。ああ、月があんなに高い・・・お身体に障ります。お身体お清め致しましょう。」セバスチャンはシエルにフラれた事になろうとも、気にせず、執事の顔に戻り、シエルを温かい濡れタオルで清めていく。 「んっ・・・」シエルは温かいタオルで、身体を拭かせている間に眠ってしまった。 スゥスゥと寝息を立てるシエルの髪を優しく撫でながら、セバスチャンはシエルを腕に抱いたまま、シーツに潜り込む。 「人」とは違い何百年と生きてきたセバスチャンだ。 今更シエルにフラれたくらいではめげない。 それからと言うもの、セバスチャンはシエルの心変わりを期待して、彼是、シエルの心を掴む為に、猛アタックを開始したのだ。 「愛しています」と毎日囁き、使用人達と同じ部屋にいようが、隙を見て、チュッと軽くキスしてみたり・・・ 執拗な夜の情事は毎晩行われるし、シエルは些かウンザリしていた。 セバスチャンは有能だ。 見目麗しい執事だ。 自分の家に仕えていなければ、言い寄る女も数えきれないだろう。 それでも、悪魔のくせに優しいからと言って、シエルには、素直に縋る事など出来ない。 (女だったら、もっと素直になれたんだろうか・・・)セバスチャンが情報を得る為に、女を誑かせているだろう事は、皆無ではないだろう。 子供である自分を重んばかって知らせてないだけで・・・ それは嘘ではない。聞かれないから、答えないだけ・・・ ある日、女王の手紙が届く・・・ 今回の依頼は、潜入調査ではあるが、過去の事件を思い出す。 娼婦を狙った殺人事件・・・まるでマダム・レッドが引き起こしたジャック・ザ・リッパーの事件の再来の様で・・・ シエルの心に重く伸し掛かる痛み・・・ 「大丈夫ですか、坊ちゃん・・・」セバスチャンはシエルの顔色を伺う。 「ああ、大丈夫だ・・・」「そんな訳ないでしょう・・・こんなに青ざめて・・ ・ご無理なさらなくて、宜しいのですよ?この事件貴方には、荷が重過ぎます。」セバスチャンは、優しく抱き締める。 「離せ!セバスチャン」「いいえ、離しません」甘え様とはしないシエルをしっかりと胸に抱き締め、優しく頭を撫でるセバスチャン。 「僕は子供ではいられない・・・甘えてはいけないんだ・・・」シエルは消え入りそうな、か細い声で呟く。 「何故、貴方の全てを知る私にまで、強がる必要があるのですか?貴方はご自分の未来を犠牲に魂と引き換えに復讐を誓われた。でも、それが何だと言うのですか?私は貴方を愛しております。どんなに辛くとも決して立ち止まらない。茨の道であろうが、前を見て歩いていく。どれ程傷付く事があろうと、構わず突き進む・・・しかし、心は偽れない悲鳴を上げて屑折れる前に私に縋れば宜しいのです。これは、悪魔としての誘惑ではありません。貴方を一人の男として愛する私の真実の心です。貴方は信じては下さいませんでしょうが・・・」何時になく、セバスチャンの肩が震えているのに、シエルは気付く。 いつも嫌味しか言わないセバスチャンが・・・ 「セバスチャン・・・」シエルが切なくなり、セバスチャンを覗きこむ。 唇が重なり合おうとした時「坊ちゃん!」突然の侵入者。 「フィニ、何ですか?ノックもなしにいきなり・・・主の部屋には無断で入るなといつも・・・」「坊ちゃん泣いてる・・・あぁ、セバスチャンさんが虐めたんだ。もう、嫌味ばかり言うからですよ。ダメな人ですね、セバスチャンさんは・・・」フィニはセバスチャンの小言など耳に入らない。 「違うフィニ、セバスチャンが悪いのではない。マダム・レッドの事を思い出して泣いた僕を慰めていただけだ。お前が気にする事ではないぞ。」涙を滲ませながらシエルが言う。 (何時の間に僕は・・・泣いていたのだろう)シエルは気付いてなかったのだ。 マダムを殺したのはグレルだが、救えなかったのは、自分だ。 大切な肉親だったのに、「女王の番犬」である限り、罪には罰を与える。 それが正しい事か、悩む暇もないのだ。 自らが選んだ茨の道・・・セバスチャンがいてくれたから、立ち止まる事なく進んでいけたのだ。 10歳の時の契約があったから・・・ 「そうだったんですか、それじゃ僕は感違いして、セバスチャンさんに失礼しました。お取り込み中、すみませんでした。」頭を下げ、そそくさと退出する。 「お取り込み中って・・・」シエルが、セバスチャンの腕の中で、耳まで真っ赤に染まっていた。 「フィニはそう言う事には、疎いと思ったんですけどね・・・まぁ、パルドと一緒にいればね・・・」セバスチャンは溜息を付く。 「お前!気配で解っただろうが、しっかり抱き締められたとこ、見られたんだぞ(・_・;)明日、奴らに合わせる顔がない・・・」シエルは怒りやら、恥ずかしさで、フルフルと身体を震わせる。 「構わないでしょう・・・貴方との契約が今のまま完了したら、私は貴方の魂を喰らい、殺す事になる・・・どの道、使用人達とは、いつまでも一緒にいられないのですから・・・」そうもし、シエルがセバスチャンの申し出を受け入れ「永遠の契約」を交わし、結婚して「伴侶の契約」をしたなら、もう人ではいられない。 完全な悪魔でもないが、不死になるのだ。 但し、セバスチャンに「死」が訪れた時、共に死ぬ運命なのだが・・・ シエルは泣きながら想う・・・ セバスチャンと契約したから、今の自分がある。 悪魔は人を誑かし、破滅させるが、セバスチャンは自分には、嘘は吐かない。ならば共にいけるとこまで、堕ちてみようかと・・・ 「セバスチャン、本当に僕を愛しているのか?僕の全てが欲しいのか?僕は、お前好みの魂でなければ、お前に飽きられるかと思っていた。お前は僕の最後の砦。お前を奪われる訳にはいかなかった。僕は信じたくなかったんだ。同族に穢された僕を悪魔のお前が愛するなんて」「坊ちゃん、貴方の全ては既に私のモノ・・・貴方の真実を知るのも私だけでいい・・・苦しまないで、私を見て私だけを・・・」セバスチャンはシエルを優しく抱き締める。 「僕もお前を愛している。お前が飽きた時は、僕を殺してくれると約束しろ・・・でなけりゃ契約なんてしてやらん・・・」「では、私と結婚して下さると・・・」「ああ・・・」ぶっきらぼうに言うシエル。 「フフ、坊ちゃんらしい・・・では、ここに契約の証しの指輪を・・・」セバスチャンがいつの間にか取り出したサテンのケース。 中には、青いシエルの瞳の様な石と、紅いセバスチャンの瞳の様な石・・・ サファイアとルビーだった。 元は一つだったとされる二つの宝石。 ルビーはオレンジがかった濃い色で「ピジョンブラッド(鳩の血)」と呼ばれ最高級品だった。 「お前の瞳と同じ色だな」シエルは輝く宝石達を見て、嬉しそうに笑った。 本来、結婚指輪は、同じ石が通例。 しかし、二人の瞳の石をお互いが持てば、契約は強固なモノになる。 「いかにも、悪魔らしいお前の考え方だな。独占欲を露わにしたと言うか・・・」シエルは左の薬指にルビーを嵌められながら呟く。 「でしょう?これで貴方は私のモノ、では、こちらを・・・」自身の手袋を口で外し、シエルに左手を差し出す。 不器用ながらも厳粛な気持ちで、シエルはセバスチャンに指輪を嵌める。 セバスチャンの指には、スクエアカットのサファイアが、シエルには、丸みを帯びたルビーが・・・ どちらからともなく重なる唇・・・ まだ外は明るい・・・使用人達が働いている時間・・・ セバスチャンは素早く燕尾服を脱ぎ、机の上に敷くと、シエルをそのまま押し倒し、深く口づける。 器用な指先はシャツを肌蹴け、愛撫し易く、服を脱がしにかかる。 「んんっ」無駄とわかっても、シエルは抵抗する。 ズボンをズルッと下げられたら、何をされるかなんて解りきってる。 (せめて寝室で・・・)自分の頭の中など、セバスチャンに覗くのは容易いだろうと、考え訴える。 案の定「無駄ですよ、折角貴方が、プロポーズ受けて下さったのですから、今ここで抱かせて下さい。それに、私にも余裕などないのですから・・・」抵抗するシエルの手を下肢の自身に触れさせれば、ピクリと感じるシエル。 体温の低い男は、シエルを抱く時のみ、熱くなるのだ。 はぁはぁと珍しく息の上がる悪魔セバスチャン。 冷静な彼を乱すのは面白かった。 「昨日も僕を抱いたくせに・・・もう待てないのか?」「ええ、貴方が私をそうさせるのです。悪魔なのに人に弄ばれて・・・もう、一生責任取って下さいね。」「フフ、主足る者それくらい出来なくてどうする?」「もう貴方には敵いませんね」ハハハ・・・フフフ二人の笑い声が執務室に木霊する。 「あっそこやっ・・・」執拗なセバスチャンの舌がシエルの秘部を舐める。 早く、挿入したくてセバスチャンは、愛撫を省き、舐めて濡らすのだ。 まるで、犬の様に・・・ 「もう、本当に駄犬なんだから・・・お前こそちゃんと責任とれよ」 「ええ・・・マイ・ロード。貴方の全ては私のモノ・・・そして私は貴方のモノ・・・これで今日より貴方は私の伴侶です。」言葉と共に、挿入され、激しく揺さぶられる。 「ああっ・・・そんな激し・・・」息も絶え絶えのシエル。 「まだまだ、これくらいでは、全然足りません。私が飽きる程抱かせて頂きます。」「待て!僕が悪かった。焦らせたお仕置きなんだろう?せめて夜まで我慢して」「もう、待てないと言ったでしょう?存分に貴方を抱かせて頂きますよ」 ズプッ深くなる律動にシエルは、唯、悶えるだけ・・・ 「愛してますよ、マイ・ロード」セバスチャンの声が部屋に響く。 シエルは熱くなる身体に、意識を飛ばしかけ、何度も何度も、セバスチャンに翻弄されていった。 悪魔に抱かれる本当の意味を、愛される怖さを想い知ったシエルだった。 FIN はじめまして、九条静音と申します。 同人活動は20年振りくらいで、時代の流れを感じました。 麗しいシエルとセバスチャンに嵌って三年目・・・ 「結婚企画」と言う事で、参加させて頂きまして、ありがとうございました? イラストのシエルのウェディングドレスは、私が着た物の写真を元に描いてみた物です。ご覧下さいませ。 セバスチャンのタキシードは、今年1/1母になった主人の姪の夫の物を参考に描いてみました。 「永遠の契約を」セバシエの結婚話を書きたくて、書いて見たので、穴だらけ(・_・;) フィニは唯のお邪魔虫に・・・ 事件もどこいった・・・まぁ、メインはセバシエですので、お許し下さいませ・・・ 月猫様、ようとん様、ありがとうございました。 |
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空気が澄み渡って、 シエルは朝の心地よいまどろみの中、 が期待に反して、そこには、
「私はここです」
「聞きますか?理由を--」
・・なんだろう・・
「どうせ僕が聞かない限り、 言え、どうせなら早くいえ」
・・きたぞ、『考えがあります』
「わざとらしいにも程があります。
・・よし!こっちのモードに、
シエルは背中を向けながらも、
・・なに?そう来るかっ・・
セバスチャンがいつものように、
・・ここまできて、 一体何だったんだろう・・ ・・っていうかもうすでに
・・この手は使いたくなかったが・・
セバスチャンは細く白い指で、
その姿を紅茶色の瞳で、
『私が申したかったのは』
「名前をそうして言ってくださると、
・・ちがう・・お前が燃えるのを
「何か言いたい事があるんじゃないのか?」 「ああ、愛の囁きが欲しいのですね
・・全然ちがう・・ ・・でも・・それも聞いてみたい・・
「今日はそんな体位で?」 「馬鹿か!もういい、服を着る・・」
本当にシエルが、
「諦めたんじゃなかったのか?」 「一度ついた炎は、 「責任をとれと?」 「よく分かってるじゃ有りませんか」
っていうかもうこいつも、
「また嘘ばかり」
「お聞きになりたいのですか?」 「もう、そんなこと、どうだっていい、
「いや・・全然」
「ぼっちゃんは、 「ふん!
顔だけ横に背けて、
「お聞きになればいいじゃないですか。 「自分から聞いて、
「お前相手には」
セバスチャンが、
燕尾服の肌触りのざらつきが嫌で、 胸を通して、
「ああ、
「もうどうにも、
「でも情報が、そこまでの、 「それはいずれにせよ、
ただ同時にパレート最適であるかどうかは
・・Tell me your reason ・・
その可愛らしい口から、
くすぐったくて、 そしてセバスチャンは、 ***************************
「もういい加減、
「ああ」 *************************** シエルは嫌な予感がして、
「どこが詐欺なのかわかりませんが、
「ぼっちゃんみたいな、
「なんでそう、
*************************** シエルが怪訝そうな顔をして尋ねる。 「今のは関係あるのか?」 「直接的には、ありません」 「わからなくなるから、 「御意」 ***************************
「は??」
「気に入りませんね。概念からきますか」
「されたら?」 「仮定の話は止しておきましょう。
「あーはいはい、妻です、妻です」
「それで浮気に走って?」 「誰が?」 「ここで第三者の名前が出てきたら、 「僕は一人で誰かに会っちゃいけないのか?
「①耐える
「それは、自分だけ耐えて 「ほう、なかなかに興味深い意見です。 「そこまでは言ってない。
余計傷つきますから。 「楽しくなんてない。 「ああ、もうそれ以上言わないでください。
「それは貴方のためで、別に隠れてません 「ふん」
********************** セバスチャンがシエルに尋ねる。 「ちゃんと表をつくって、
**********************
「気のせいです」 「ふん・・で?」
彼女か私かどちらか積極的に動いた方が、
どちらかが貴方を手にしたら、もう片方は
「茶々をいれないでください。 ふたりとも同じ様に貴方を追い求めると、
「ええ、それが最良の結果ですね という順番で幸福度、
彼女が積極的に動くと考えると、 どちらの方がいいかといえば、簡単ですね 先ほどの幸福度の順番からして、 そして二人とも積極的にアピールして、 お互い非積極策は取りづらくなるのです。 最悪のライバルに取られるのを恐れると、
そんな展開にはならないのですが」
「結婚生活があると言ってください、 「どっちでも同じ事だ・・」
「わかってます、単なる喩えです」 「裏切るな、絶対・・・」
ぼっちゃんは囚人のジレンマを、
裏切って自白すれば、無罪、 お互い黙秘すれば、事件の概要が分からないので微罪で済み、懲役1年。 囚人同士は隔離されていて、 ぼっちゃんならどうしますか?」
どちらの場合でも自白した方が、
「いまこの黙秘と自白を、 「裏切った方が得というのか?」
「ええ、私も貴方を裏切りはしない。
「だからと言って、
そしてさっきのミニマックス戦略、
そしてそれより優る物は、
あるあるという顔をして頷くシエルに、
「しっぺ返し戦略はその名前の通り、
「ええ。 「それが最強の戦略か?」
「ぼっちゃんはゲーム好きですからね、 「抱きたくなったとか、 「よくお分かりですね」
セバスチャンがシエルの前に立って言う。 「では実際に25回目までの表に、
シーツの上に横向きに押し付けられた
「酷い言い様ですね。
「お知りになりたいですか?本当に」 「嫌だ、聞きたくない」 耳を塞ぐ格好をするシエルに
「有り体に言えばそうなります、
「では何故しっぺ返し戦略が、
「上品で、寛容で、シンプルだからです」 「どういう意味だ?」
「自分からは裏切らないという意味で、 「ふん、なるほどな」 「基本的に悪魔は、そういったものです」 「上品で、寛容で、シンプルだと?」 「行動理論的に--という意味ですよ。 そういうプログラムに良く似ているのです 「上品なら、いますぐ抜け。まったく!」
このゲーム理論も、中心となるのは、
「ええ、端的に言えばそうです」
「最低24時間だ」 「随分厳密なのですね--」
「寛容でしょう?神よりは--。
「では上品に今日は、
「どうせ、 「酷いな・・」
「それも何か? 「ええ、まあ一応」 「どんな戦略なんだ」
そしてたとえば、浮気の例のときのように 要するに協調したのか、裏切ったのか、
「なんの効果だ? 「そんな薬があったら、 「じゃあ、お前は性欲抑制剤でも飲んどけ」
「犬か。それもお前っぽい」 「嫌いなのを知ってて--。 セバスチャンは心持眉をしかめて言う。
「パブロフ戦略とは、 「なるほど、相手の選択依存ではなく、 「ええ、ですがやはりノイズ、
セバスチャンは眼鏡に繋がった鎖を、
「ちゃんと理解できたようですね、 「さっきの紙芝居で、
一定期間ごとに、
「べつにあんなシーン見たからと言って、
「僕は実験台かっ!
「さぁ踊りにいかれたのではないですか? さっきから思うのですが、
「それは中身ではありません」 「・・
本当に、
もう一度この勉強の趣旨を言いますよ。 悪魔になられたのですから、 「ああ、そういう趣旨だったのか・・
では、 ジレンマを抱えやすいのです。 そして人間ほど、
「コインでも投げるか、
「嫌な趣味です」
******************* <完> |
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それは、二人だけの秘め事。
Secret oath ガラガラと進む馬車の中、目の前の不機嫌な主人を見て、執事はため息をついた。 「・・・坊ちゃん、いつまでむくれているつもりですか?」 「別に、むくれてなんかいない」 声をかけても、返事は素っ気なくしか返ってこない。 きちんとした執事の格好で主人を見ている姿に対し、主人の方は乱暴に足を組み、窓際に寄り掛かって、そっぽ向くように外を眺めているのだ。 「お行儀悪いですよ」 「・・・誰も見ていないから良いだろう」 「私が見ています」 「お前には関係ない」 「そんな事は訊いていません」 執事の最後の一言に、主人はハッと息を呑んだ。 窓の外に向けられていた瞳は、今は執事のそれに向けられている。 「先程、教会の前を通ってから、ずっとご機嫌斜めですね」 「・・・別に」 やっと向けられた主人の視線に苦笑し、執事は話を続けた。 けれど、すぐに主人の視線は伏せられてしまう。 十分ほど前、二人の乗る馬車は教会の前を通った。 教会に大勢の人が集まっていたので、主人が何事かと執事に訊ねると、彼は結婚式ですね、と答えた。 その時からだ、主人の様子がおかしいのは。 (まったく・・・結婚式を見て機嫌を悪くするほど、微妙な年頃でもないでしょうに) 執事は主人に隠れて、再びため息をついた。 この主人は不機嫌そうにしている時に理由を訊ねても、なかなか話してくれない。 それでも態度に出すという事は、本心では理由を聞いて欲しいのだろう。しかし、訊ねてもなかなか言わないとなると、この主人の性格は、かなり意地っ張りの領域に位置する。 結局のところ、主人が折れるまで執事が訊ねる、の繰り返し。 それで主人が満足するなら、少しでも気が晴れるなら、と、執事は今日も訊ね続けるのだ。 「坊ちゃん、不機嫌そうにしている貴方もそそられますが、出来れば私は、貴方の笑顔の方を見たいです」 「な、何を言って」 ですから、そろそろ理由(わけ)を話して下さいませんか? 執事が訊ねながら席を移動し、主人の隣に腰掛けた。 突然狭められた距離にたじろいだ主人は、窓ガラスに頭をぶつけてしまった。 「ッ・・・」 「嗚呼・・・痛かったですね。大丈夫ですか?」 小さく呻いた主人の頭を撫でるついでに引き寄せ、腕の中に閉じ込める。 「・・・大丈夫」 腕の中から小さな声が返され、執事はホッと安堵した。抱き寄せた事で、更に機嫌を損ねるかと思ったのだ。 けれど主人は、執事の腕の中で、子猫のように大人しくしている。 「ねぇ、坊ちゃん。貴方が不機嫌な理由、話して下さい」 ここぞとばかりに執事が訊ねると、主人は軽く身じろいだ。どうやら、話す体制を整えているようだ。 「・・・さっき、教会で結婚式があっていただろう」 「ええ」 「僕には一生縁がないと思った。・・・ただ、それだけだ」 “一生縁がない” その言葉は氷の刃となり、執事の胸を深く貫いた。 冷たく痛む胸は、まるで悲鳴を上げているようだ。 もし、自分がただの悪魔で執事だった時なら、今の主人の言葉は、さぞ面白かっただろう。 当たり前だと切り捨て、揶揄していたかもしれない。 主人が悪魔である自分と契約した事で、その生は大人になる前に終えられる可能性が、非常に高まったのだ。 きっと、あの幼い婚約者と一緒になる事は叶わない。 けれど、今は? 今は悪魔で執事で、そして恋人なのだ。 そんな自分の前で、結婚式に一生縁がないと言われると、さすがに悪魔でも胸が痛むというもの。 そのような言葉を言わせてしまうほど、信用がないのか、とも思えてくる。 もっとも、儀式的な意味で考えると、どちらも新郎になるので、式は成立はしないだろうが。 新婦のいない結婚式など、聞いた事がない。 (・・・そういえば) ふと、大昔に聞いた話を思い出した。 主人の好む類の話ではないが、言わないよリは、少しはマシかもしれない。 執事は主人の手を取り、真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。 深い森を映した海のようなその色は、悪魔でさえも魅了する。 「坊ちゃん、こんなおとぎ話をご存知ですか?」 「おとぎ話?」 「正確に言うと、おとぎ話のような伝承・・・でしょうか」 主人は興味を抱いたようで、視線を逸らすことなく、執事を見ている。 「愛し合う二人が、どうしても結婚を許されない時、どのように誓いを立てるのか。どのように誓いの儀式を行うのか・・・。 二人が共有しているものに、誓いの口付けを贈り、愛の言葉で誓いを交わすのです」 「共有しているものとは?」 「私と貴方の場合で言うと、契約印ですね」 執事が手袋の上から、契約印のある甲を、反対の手の指でトントンと指した。 「じゃあ、僕がそこにキスをして、お前が僕の左目にキスをすれば、儀式は整うという事か?」 「そういう事になります。さすがは坊ちゃん。ご理解が早くて何よりです」 にっこり笑顔を向けると、うっすら頬を染めて唇を尖らせる。これは、照れている時に見せる、主人特有の表情だ。 「では、私から」 「は?え・・・っておい!!」 「何でしょう?」 頬を両手で包み、身を乗り出してきた執事を、主人は両腕を突っ張って止めた。 大層必死な顔の主人とは反対に、執事はキョトンと首を傾げている。 「私から、って何だ」 「もちろん、私から坊ちゃんの契約印に口付けを贈る、という意味ですが」 何かご不満でも?と訊けば、大きく頷かれた。 「僕の契約印に口付けを贈るって、それは、つまり・・・」 「つまり、結婚の儀式、という事になります」 サラリと言ってのけた執事の胸を、主人はポカポカと殴った。小さな力なので、執事には痛くも痒くもない。 「そんな事を、今この場で普通するか!?」 「今この場だから、ですよ」 猶も殴ろうとする主人の細腕を掴み、執事は真面目な顔で彼を見やった。 瞳の紅茶色の奥に、赤色がチラチラ見え隠れする。 紅茶色に赤色が入り混じるこの瞬間が、主人は好きだった。 「貴方は、結婚式というものが、自分には一生縁がないとおっしゃった。貴方を愛する私としては、そんな事を言わせたままにするなんて、出来ませんよ」 私は、悪魔で執事で、坊ちゃんの恋人ですから。 瞳は紅茶色に戻り、優しく音が紡がれ、主人の胸は甘く締め付けられてしまった。 執事の優しい音が、自分の胸の不穏な音を、絡め取ってくれている。 その和音は、とても心地良い。 「・・・この小さな馬車(はこ)の中で、二人きりの儀式というのも・・・悪くないな」 「坊ちゃん・・・」 あの光景から、やっと見られた主人の笑顔。それは、照れを含んでいるものの、嬉しそうなものに変わりはなくて。 執事は、その表情を脳裏に焼き付けようと、逸る気持ちを抑え見つめ続けた。 しばらく主人の笑顔を堪能した後、執事は彼の眼帯の紐を解いた。朝の着替えの際に自分が結んだそれを、こんなにも早く解く時が来るなど、何だかおかしな気分だった。 解けた眼帯が主人の膝に落ちるが、執事はそれを気にも留めず、主人の艶やかな前髪を梳き、隠れた左目を露わにする。 「では、坊ちゃん・・・目を閉じて」 「ん・・・」 ゆっくりと、瞼を下ろす主人。 緊張からか、瞼は少し震えており、その仕草が自分への想いだと感じた執事の胸は、愛しさで満たされてゆく。 その愛しさを、下りた瞼の上に、口付けとしてそっと落とした。 瞼が上がり、主人の契約印が見える。 「・・・今度は、僕が」 「はい、お願いします」 執事の右手が差し出され、主人がぎこちない動作で手袋を外す。 現れた手は、主人の小さく細いそれとは異なり、男らしく骨ばった大きなものだった。 爪は、悪魔の証である黒に染まっている。 主人はそっと執事の手を取り、契約印のある甲へと口付けた。 「私、セバスチャン・ミカエリスは、病める時も健やかなる時も、シエル・ファントムハイヴを愛し、他の誰にも渡さないと誓います」 執事の自己流の誓いの言葉に、主人はクスリと笑った。 (ならば僕も、自己流で返さないとな) 「僕、シエル・ファントムハイヴは、病める時も健やかなる時も、セバスチャン・ミカエリスを愛し、いつまでも僕のものである事を誓います」 主人の自己流の誓い文句に、執事もクスリと笑った。 「何ですか、それ」 「お前の方こそ」 たった今、愛の誓いを交わしたとは思えないような笑みを浮かべ、二人は笑った。 馬車は、もうまもなくファントムハイヴ邸に到着する。 「この伝承なのですが」 「?」 ひとしきり笑った後、執事がポツリと言った。 「大昔、悪魔と契約した人間がいて、その二人が恋に落ちたそうです。しかし、互いに種族が違い、相容れぬ存在・・・当然、結婚なんて出来ません。けれど、それでも二人の愛は途切れることなく続き、せめて自分たちの繋がりに誓いを立てようと、先程の儀式を行ったそうです」 「それが、この儀式の起源か?」 「そう言われています」 本当におとぎ話だな、と思う。 それでも、少なくとも自分は、この子供染みた儀式で救われた気持ちがあるのだ。その大昔の二人に、感謝したいと思う。 「その二人は、誓いの後どうなったんだ?」 「・・・最期まで、幸せに暮らしたそうです」 「そうか・・・」 ああ、またしても、彼らの運命に救われてしまった。 自分には明るい未来などないと思っていたのに、死をもたらすはずの悪魔に愛を注がれ、今はこうやって誓いを立てるまでの関係になったのだ。 例えこの生が短くとも、最期まで生きれば、幸せを感じる時間が沢山あるだろう。 (感謝する・・・) 誰かは分からないが、その二人に。 そして、目の前の悪魔に。 「僕は、お前を手放さない」 「それはそれは・・・嬉しいお言葉ですね」 執事は主人を引き寄せ、薄く色付いた唇にキスを落とした。 それは儀式を締め括る誓いの口付けとなり、二人の誓約はこれで成立。 馬車が、屋敷に到着した。 扉を開けば、二人にとって新しい世界が広がっている。 新しい、未来が。 END 【あとがき】 たまには、こんな幼稚なおとぎ話があっても良いかな~と思いまして^^; もっと可愛いお話になる予定だったのですが、何故か予想外の方向に・・・。 読んで下さり、ありがとうございました! 良野りつ |
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