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どうやらセバスチャンの言った通りある程度の解呪が進んだおかげで、とりあえずセバスチャンが僕の左手を握っていなければ僕が窒息死するという状態からは脱することが出来た。
しかし、やはりセバスチャンから離れすぎると僕は五感を失い、倒れてしまうようだった。 同じ部屋にいなければ駄目だし、同じ部屋や空間にいてもお互い手が届かない場所までいないとやはり倒れてしまうようだった。 この件は全面的に僕が悪いはずなので、何せ、勝手に他人の部屋に入って物色し、あまつさえ他人の持ち物を好き勝手したのに、あいつはひとつも苦言を呈さなかったし、嫌味すら言わなかった。 それどころか真摯に謝罪した。怒っていいやつが怒らずに謝るなど、しかも相手はあのセバスチャンだ。何かおかしい。そして何よりこの指輪は呪われているらしい。そんな物騒なものを誰に贈るつもりだったというのか。 「お前、この指輪を誰に贈りたかったんだ?」 夜半、寝つけずにもぞもぞしていると眠れませんかとベッドの隣で椅子に腰かけているセバスチャンが問いかける。ちなみに手は繋がれたままだ。 「この指輪は呪われているのだろう?」 「ええ」 「そんな物、誰に贈るつもりだったと訊いているんだ」 「誰だと思います?」 「質問を質問で返すな」 「当ててみてください」 「………グレル・サトクリフ?」 「―――冗談でもよしてください。死んだってあの方には贈りません」 セバスチャンは苦虫を噛み潰したような顔をした。そう思われるのは心底不快で堪らないと言いたげにしている。僕にそう思われたのは本気で嫌だったらしい。例え、自身が不快に思っていてもそれを表に出さず徹頭徹尾、執事の仮面を完璧に被るこいつがここまで態度に出すのだから相当だ。 「お前が呪いたい相手なんてそれくらいしか思いつかなかった」 「残念でした」 「後、お前が呪いたい相手なんて…」 「呪いと一口に言っても、色んな形があるのですよ」 「?今、何か言ったか?」 「いえ、何も」 「ふん…」 どうやらこいつは絶対自分からは答えを言うつもりはないようだ。つまり指輪を渡したい相手を僕が当てない限り、僕は一生この疑問に対する答えを得られないようだ。 「ヒントくらいは言いだろう?」 手がかりもなしに推測しようとするのは、砂漠の中、一粒の小さなダイヤを探すことに等しい。 ほぼ不可能に近い。拒否されるかと思ったが、セバスチャンは特に嫌な素振りも見せずに了承した。 「その相手は生きているのか?」 「…ええ、まだ生きていますよ」 「人間か?」 「はい」 「歳は?」 「私よりは年下ですね」 「…お前より年上の人間なんているのか?」 「いえ、いませんね」 僕はこいつの実際の年齢など知らないが、少なくとも人間よりは遥かに長生きしているようである。 「質問を変えよう。僕の年齢と比べて近いか」 「そうですね。近いです」 「僕の知っている人間か」 「よくご存知ですよ」 「…その相手は僕の身近にいるのか?」 「はい、とても」 「――――まさか…そんな…」 「……坊ちゃん?」 ひとつの答えに辿り着く。だが、この答えは――――――。 「――――坊ちゃん?」 「まさか……リジー…?」 半信半疑に最後の部分は囁くように答える。脳裏に天真爛漫な可愛らしい従姉妹の姿が思い浮かばれる。まさか、そんな…リジーにピンクの帽子を被せられたことや、ファントムハイヴの屋敷をメルヘンに飾り立てられたことが相手を呪いたくなるほどそんなに腹立たしい事だったというのか。 「……貴方の予想は斜め上に行きすぎです」 どうやらセバスチャンの様子から言っても僕の答えは外れらしい。セバスチャンが疲れたように溜息を吐く。 「じゃあ、一体誰だというんだ。僕に歳が近くて僕がよく知っていて、僕の身近な人間なんてリジーを除いたら僕自身しかいないじゃないか!」 「――――よく分かっているじゃないですか、坊ちゃん」 「―――――――――え…?」 やんわりと握られていた左手を今度は強く握られた。驚いて手を引こうとしたがそれ以上の力で引き留められた。逃がさない。そうその手が訴えているような気がした。 「…僕に…贈るつもりだったのか…?」 何故?どうして?こんな呪われた指輪を、下手したら死んでいたかもしれないのに、そんな危険な物を何故僕に贈ろうとしたんだ…?そんな疑問ばかりがぐるぐると頭を駆け巡る。好かれてはいないと思っていた。だが、嫌われているわけでもないと思っていた。どうやらその認識は改めなければならないらしい。 「坊ちゃん…」 「…何だ…」 「この指輪のもうひとつの解呪方法…知りたくありません?」 意気消沈していた僕に思いがけない質問が投げかけられる。もうひとつの解呪方法だって? そんなの寝耳に水だ。 「そんなのあるのか?」 「はい。言うなれば私が今行っている解呪法は裏技みたいなもので正規の解呪方法がちゃんとあるんですよ。しかもそちらの方が早く、安全に尚且つ一発で解呪できるようになっているのです」 「何故、今まで教えなかった」 「この解呪法を伝える決心がなかなかつかなかったので」 「じゃあ、今は決心したというのか」 「はい」 「……その事と僕に指輪を贈りたかったことが関係あるのか」 今までセバスチャンの指輪を贈る相手について話していたのに、それとは打って変わって唐突にもうひとつの解呪法の話になった。この二つの話が繋がっているようには見えなかった。 「関係ありますよ。…これからこの指輪についてお話します。坊っちゃんは黙って聞いていてください」 「お前、何様で…いいだろう、話せ」 「はい。少し長くなりますが、途中で眠ったりしないでくださいね」 「馬鹿にするな、とっとと話せ」 「はいはい」 「まず、最初にこの指輪は正式には『誓約の指輪』と言います」 「『誓約の指輪』?僕は一体何を誓ったというんだ」 「それもこれからご説明します。まずは聞いてください。 前に坊ちゃんにこの指輪は『ある儀式』の時に用いられるとお話ししましたが、その儀式を具体的に言うと結婚の際に用いられるのです」 「――――は?」 鈍器で頭を殴られた様な衝撃を受けた。予想外の展開に眩暈まで起こしてきた。 「え…あっ?…ちょっと待て…結婚だと?」 「はい」 「……僕は誰かと結婚したのか…?」 「…ご説明します。とりあえず今は黙って聞いてください」 混乱する僕にとりあえず話を聞くように諭すセバスチャン。矢継ぎ早に質問したい気持ちを抑えて頷く。 「いい子ですね…。結婚指輪などというものは今でこそ幸せの象徴のように扱われていますが、昔は服従や契約の印として贈られていたのですよ。当時は指輪をお互いに交換し合う習慣などはありませんでした。現在の結婚指輪は金銀製のものやダイヤモンドなどの宝石が付いたものが主流ですが、紀元前1世紀頃までは何の飾りもないただの鉄の指輪だったのです。坊っちゃんはプロメテウスの話をご存じでしょうか?プロメテウスがギリシャ神話の最高神であるゼウスに詐欺を働き罰を受けさせられた。そしてプロメテウスはゼウスに絶対服従の誓いを立てさせられてその印として鉄の指輪を嵌めさせられたのです。古代ローマ王制・共和制時代までの法律では家長の権限は絶対的なもので女性の権威はとても低かったのです。女性に鉄の指輪が贈られていたのは服従の誓いの意味が込められていました。現在のように永遠の愛を誓うといった意味合いもなく契約の指輪として贈られていたのです」 「なるほど…つまり夫が妻を隷従させるために、自分への服従の証として贈っていたと」 「ええ。言ってしまえばそうです」 「そして、この『誓約の指輪』は贈った相手を自分に縛り付ける、人間の薄っぺらい紙切れの誓約書なんかよりも強い執行力を持つのです。これを贈られた相手は夫に対して貞操を守りぬかなければなりません」 「守れなかったら…?」 「死にます」 セバスチャンの答えは簡潔だった。 「これを私は貴方に贈りたかった」 ぎしりとベッドが軋んだ。セバスチャンが僕の左手を強く握ったままベッドに乗り上げ僕の上で四つん這いで覆いかぶさる。ぐっと顔を近づけて、もう少しで唇と唇が触れ合う距離まできてしまう。顔を逸らしたくてもセバスチャンの視線の強さがそれを許さない。 「契約がありますから、貴方の魂は私のものです。ですがそれは言い換えれば魂『しか』私の物にならないということです。貴方のこの身体も心も決して私の物にはならない。 ―――いえ。身体だけなら無力で脆弱な貴方を力でねじ伏せ、手籠めにできたことでしょう。でもそれだけでは私の渇きは収まらない。貴方が心から私に全てを捧げなければ私の飢えは満たされないところまできてしまったのです」 熱っぽい濡れた瞳で見つめられ、心臓がどくどくと激しく脈打つのを感じる。身体全体が沸騰しそうなほど熱い。互いの吐息が感じるほど近くで見つめあう。首を絞められているような息苦しさを覚えて、咄嗟に顔を逸らそうとするがセバスチャンの手が僕の頬を捕まえてそれを許さなかった。 「この指輪で貴方を服従させたかったのです。私以外と情を交わさないように」 私だけのものにしたかったとセバスチャンが熱い吐息とともに漏らす。その吐息を感じてあっとやたら甘ったるいせつない声を出してしまって、慌てて右手で声を抑える。 「駄目です。ちゃんと聞かせて……」 「ん…や、だ…」 幼い僕にだって分かる。セバスチャンは僕に欲情しているのだ。まさかセバスチャンが子供でしかも男の僕を肉欲で見ていたなんて思いもしなかった。 「お、前は僕がこの指輪を受け取らないって…」 言ってただろと掠れてきた声で続ける。こいつがおかしな目で見つめてくるから僕までおかしくなってしまった。こいつが欲しくて欲しくて堪らない気分になってくる。その鋭い視線で、その男の手で僕を身体の奥まで骨の髄まで犯してほしくて堪らないとそんな風に考えてしまう。 何とかこの状態から抜け出したくて切り口を探し出す。 「ええ、言いました」 運よくセバスチャンは乗ってくれた。 「この指輪は、遠い昔ある国の王がその国の呪い師に作らせたものです。王はとある女性に懸想しておりました。そして何とかして彼女を自分の妻にしたい、自分のものにしたいと考えて自分の国の呪い師にこの指輪を作らせました。そして王は彼女にこの指輪を嵌めさせようとしました。しかし女性はこれを拒絶しました。女性には他に想う男性が居たのです。それでも王は無理矢理彼女にこの指輪を嵌めさせようとします。すると何故かこの指輪は彼女の薬指に嵌りませんでした。それならと別の指に嵌めさせようとしますが、どの指にも指輪は合いません。彼女が自分以外の男の指輪を嵌めるなど王には耐えられませんでした。それならと彼女の指を全て切り落としてしまったのです。そして彼女は指から流れ続ける血で死んでしまいました。怒った王はこの指輪を作った呪い師を極刑に処したのです」 「…その呪い師が欠陥品を作ったのか?」 「いえ、違います。実はこの呪い師、女性だったのですよ。そして彼女は王を愛していました。ですが王は彼女をただの自身の召使い程度にしか思っていませんでした。そして自分以外の女性と結ばれるためにこの指輪を作ることを命じられ、彼女は苦悩しました。本当はそんな物作りたくない、しかし王の命令は絶対です。ですから彼女は条件を付けました。この指輪を嵌めることができるのは贈った相手のことを愛していなければ嵌めることができないと。思いあう男女でなければ嵌められないということです。醜い嫉妬の末、その嫉妬の炎に焼かれて身を滅ぼした男と女の物語です。 ―――――まあ、『男女』ではなくても良かったみたいですがね…」 最後にそう付け加えてセバスチャンの話は終わった。だが、最後の一言が僕は驚愕した。 つまり、これはお互い恋い慕う恋人同士、もしくはお互いに懸想している者たちでなければこの指輪は嵌められないということだ。――――つまり…。 「坊ちゃん、どうしてこの指輪を『嵌められた』のですか?」 これが訊きたくて長々とこの指輪の経緯をセバスチャンは話してくれたのだ。 今や顔だけでなくセバスチャンと僕の身体は布団を挟んで密着していた。伸し掛かられて身動きひとつ満足に出来ない。 「私は貴方が欲しかった。もちろん肉欲的な意味で。そして自分がどうしてそれを求めているのか理解もしていました。―――勿論、最初は信じたくありませんでしたが。 貴方が私以外の者を見る度、私以外の者を呼ぶ声を聞く度に醜い嫉妬の炎に焼かれていました。 そしてそんな時にひょんな縁でこの指輪を手に入れることになりました。私は最初、これを貴方に嵌めるつもりでした。そして完全に自分の物にしてしまいたかった。ですが今のお話を聞いたでしょう?私の一方通行な想いだけでは貴方はこの指輪を嵌めることが出来ない。例え、悪魔の力を使ったとしても。強力な呪いがかけてありますから、無理強いすれば、下手をすれば貴方が死んでしまうかもしれない。だからあの時ああ言ったのです」 『最初はそのつもりでした。でもきっと相手は受け取りません。――いえ、正確に言えば受け取れないと言った方が正しいですがね』 あの時の言葉が脳裏に蘇る。だからセバスチャンはあんな風に言ったのか…。 「さて、貴方の疑問には粗方答えました。今度は私の番ですよ、坊ちゃん」 両手で僕の手を強く握られてその強さにくらくら眩暈までしそうだった。 「何故、この指輪を嵌められたのか教えていただけないでしょうか?坊ちゃん」 まるで食べたくて食べたくて堪らないご馳走を目の前に出された子供のような顔をしている。 今に舌なめずりさえしそうな雰囲気にぞくりとしたものが背中を駆け巡った。 「それじゃ…それじゃまるで僕がお前の事好きみたいじゃないか…」 「そうですよ、坊ちゃん」 「違う!」 想像していたより遥かに強い叫びがでた。そんな強く叫んだつもりはなかったが、まるで屋敷中に響いてしまうほどの大きさだった。 「違う!違う違う違う!僕はお前の事なんて何とも思ってない!」 「――――――」 「お前は悪魔だ。人間なんて愛するはずがない!僕だって自分の魂を喰らおうとしている穢らわしい悪魔なんて好きになるはずない!お前と僕には契約しかないんだ!」 そうだ。それしかない。所詮人間と悪魔だ。捕食者と獲物。分かり合えるはずもないし、まして愛情なんて抱くはずもない。 「僕を惑わそうとしても無駄だ!残念だったな、お前は僕にとって、ただの執事でしかないんだ!」 「―――――――」 「!?っいたっ……」 叫んだ瞬間に両手を頭上の上で一纏めにされる。もうほとんど唇と唇が触れ合っているほどの距離で睨まれる。今にも強姦されかねないほどの視線の強さだ。 「本当に聞き分けのない糞餓鬼ですね。…無理やり既成事実を作ってもよろしいのですよ」 「…そんなのただのレイプだろ…」 「ええ、それはお嫌でしょう?私も無理やりなんて趣味じゃありませんから。だから貴方に自覚を促しているのです。―――まあ、そういうシチュエーションの方がいいというなら協力するのも吝かではありませんが…」 「ふざけるな!だれがレイプなんか許すか!」 「ではどうして?この指輪を嵌められたのです?さっきも言った通りこの指輪を嵌めるには私に対して恋慕を抱いてなければ嵌められませんよ。もういい加減にしなさい」 僕が苛立っている以上にセバスチャンは苛立っているようだ。柳眉を逆立てて、目は赤く煌めいている。 「貴方は私を愛しているのですよ」 「違う!」 「違いません」 「僕はお前なんて何とも思ってない!」 「…ではどうして私の部屋に忍び込んでこの指輪を嵌めたのですか?言い訳があるのなら聞きましょう。―――納得できるかは別ですが」 「…僕は…」 ――――僕は…… 「お前なんか嫌いだ。高みから僕ら人間を見下して、何でもできるって顔して僕が無様に足掻くのを楽しんで見ているお前なんか…!」 「……」 「…だけど!でも!お前が…お前が…」 感情の高ぶりで声が震える。今にも涙を流してしまいそうだった。それを寸前で堪える。 泣いているところなんかこいつに見せたくない。自分の弱っているところも見せれば、簡単に捕食者に捕えられて喰われてしまう。何よりこいつにそんな自分の弱い部分を見せたくなかった。 それがプライドの高さゆえのことだったのかそれとも全く別の何かゆえのことだったのか、分からない。 「それでもお前が僕以外を想っているのが嫌だった!大嫌いだけど、でも、それでも! お前の一番が自分じゃないのは嫌だったんだ!!」 そうだ。こいつの視線の先に、声の先に、想いの先に自分以外がいるのが嫌だった。我慢ならなかった。いつだってこいつの求める先に自分がいなければ我慢できなかった。他の誰かに渡したくなんてない。それが何の感情ゆえかは分からなかったが、これは明らかに独占欲だった。自分以外の誰にも渡したくなんてない。自分だけのものでいて欲しかった。 「それは明らかに『執事と主人』や『悪魔と獲物』の領分を超えていると思いますがね」 大嫌いだけど自分の一番じゃなければ嫌だと言うシエル。それは不器用な彼の精一杯の愛の告白のようにセバスチャンは感じた。誰かが言っていた。好きの反対は無関心だと。今、まさしくその通りだとセバスチャンは首肯する。長い年月生きてきて数多くの異性、もちろん男性にだって言い寄られていたセバスチャンだがこれほど心震えるような情熱的な口説き文句は聞いたことがなかった。 「っ嫌いだ。お前なんか…っ」 遂にシエルは泣き出してしまった。ぽろぽろと小さな美しい宝石がその瞳から零れ落ちていく。セバスチャンはそれを静かにそっと舌で掬い取る。いやいやと首を振るシエルだが構わず追いかけて舐め取り続けていくと徐々に抵抗の力が弱まっていく。 「大嫌い、だ…お前なんか…」 「もういいですよ」 「きらい…きらいだ…」 「泣かせてしまいましたね…申し訳ありません。ですが私は嬉しいですよ」 泣きじゃくるシエルを宥めるように目尻に優しくキスをした。びくんとシエルが身震いしたが構わず何度もキスを続けて宥めていくと少しずつ冷静さを取り戻していくようだった。 「嫌いって言った…」 「ええ、もうそれでいいですよ。貴方が私を嫌いでも。その分私が貴方を好きになりますから」 「…僕はそんなの信じない…」 「信じてもらえるよう努力いたしましょう」 セバスチャンは何度も何度も目尻や瞼や頬や額に口付ていく。嫌がっても追いかけてきて必ずキスしてくるのでシエルは抵抗する気も無くなってしまっていた。 「それでどうします?」 「…どうとは?」 「もうひとつの解呪法をお試しになりますか?」 そうだ。最初はその話から始まっていたんだ。今までの展開の衝撃に呑まれていたシエルはすっかりそれを忘れていた。 「…どんな方法だ」 「……先ほどこの指輪は結婚の際に使われるとご説明させて頂きましたが、もう少し具体的に言いますと、結婚した初夜、夫婦の寝室で使われるものなんですよ。妻にした女性の身体の自由を奪って声を奪って感覚を奪ってから征服させ契りを交わらせるのです。そして夫に全てを捧げてから女性は自由の身になったのです。…まあ物理的な意味でですよ。本当の意味では自由はありません。…この誓約は未来永劫破棄することができないんですよ」 「……契りって…」 「意味はもうお分かりでしょう?まさか他の人間が私のように魔力で呪いを解呪できたとでも?」 セバスチャンの言っていることがセックスのことだと、子供の僕にでさえすぐに分かった。 でも女性との性交渉すらないシエルには同性同士のやり方など知るはずもない・ 「どうすれば…」 「大丈夫です。私に身を任せて全て委ねて…貴方はただベッドに横になっていればいい…」 唇を重ね、熱い舌が僕の口内を掻き回す。息継ぎもなく与えられる口付はひどく官能的で、魂まで奪われそうだった。 →next PR |
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